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「特別活動:隠された秘法」~学習指導要領に見る《学校が忙しくて当たり前》の話②

 日本の教育の秘法「特別活動」がいま、
 世界から注目されている。
 国内では十分に評価されない活動だが、
 実はとんでもなく長時間の学習、及び訓練なのだ、
という話。(写真:文科省

【“The Making of a Japanese”(日本人の作られ方)】

 来週3月2日、ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催される第97回アカデミー賞の授賞式には、日本から3本の映画がノミネートされています。そのうちのひとつが、山崎エマ監督による短編ドキュメンタリー映画『Instruments of a Beating Heart 心はずむ 楽器たち』です。
 これは東京都内の公立小学校の教育現場を約1年間、700時間かけて撮影した長編ドキュメンタリー映画『小学校 ?それは小さな社会? 』の短編バージョンで、掃除や給食の配膳、運動会といった日本の学校の“普通”を見つめ、映像として仕上げたものと言われています。

 アカデミー賞候補になった短編の題名「Instruments of a Beating Heart」がどういう意味でどういうニュアンスなのか分からないのですが、長編の方は英語のタイトルが「“The Making of a Japanese”(日本人の作られ方)」で、私が日ごろから使っている「日本人を日本人に育てる教育」という言い方と基本的には同じです。したがって映画の紹介文も、
『「新幹線や電車の運行が秒単位で管理され、皆それが当たり前と思っている」「東京のような巨大都市の隅々まで、清掃が行き届いている」「落とし物や忘れ物は多くの場合、警察に届けられて持ち主に戻る」──。これらは何十年も前から繰り返し言われている、海外の人々が驚きの目で日本社会を語るエピソードだ。
 この「規律と秩序、集団生活における協調」は、どこから来るのか。昨年12月に公開された映画『小学校~それは小さな社会~』では、そこでの6年間が「日本の子どもたちを“日本人”に作り上げる」とし、学校生活のありのままを見せてくれる』(2025.01.25 nippon.com「日本の普通」に世界が驚いた: 映画『小学校~それは小さな社会~』を制作した山崎エマ監督
といったふうになります。映画はフィンランドで4カ月間のロングランとなり、ドイツや米国の映画祭で入選し、韓国ではテレビ放映されたと言います。

 日本の学校における清掃や配膳、運動会といった活動は総称して「特別活動(特活)」と言われています。ここ十数年は海外でも注目されるようになって”Tokkatsu”の名前で親しまれるようになってきました。その様子を私も別ブログで再三、記事にしています*1
 そうはいっても本家本元の日本でも「特活とは何か」と改めて聞かれると答えにくいところもありますので、今日は簡単に整理しておきたいと思います。

【特別活動(Tokkatsu)とは何か】

 日本の初等・中等教育において学校が達成すべき教育内容と方法を定めた国家基準のことを学習指導要領といいます。もちろん「特別活動」についてもそこに詳しく書いてあるのですが、簡単に言えばその目標はこんなふうになります(抄訳)。

(目的)集団活動を通じて、協力し合う力を身につけ、生活や人間関係の課題を解決する力を育て、自分の生き方を深めて次のような資質・能力を育成することを目指す。

  1. 他者と協力する集団活動の意義を理解し、適切に行動できるようにする。
  2.  生活や人間関係の課題を見つけ、話し合いで解決できるようにする。
  3.  集団活動を通じて得た知識を活かし、より良い生活や人間関係を形成し、自分の生き方について深く考え、自己実現を目指す。

 これをさらにひとことで言うと、「よき人間関係の持てる人間にする」「日本人を日本人に育てる」ということになります。

 では具体的には何をしているのかというと、小学校では四つの項目に分類します。

  1. 学級活動(話し合いによる学級の問題解決、班活動、当番活動〈日直・給食など〉、飼育活動、レクリエーション他)、
  2. 児童会活動(役割を分担し、仕事を持って、組織を運営する訓練)
  3. クラブ活動(健康や文化、リクリエーションの学び)
  4. 学校行事(入学式・卒業式などの儀式的行事、音楽会・演劇鑑賞などの文化的行事、避難訓練や健康診断などの健康に安全に関わる行事、遠足・宿泊などの行事、勤労やボランティアに関するものなど、社会生活に繋がるもの)

 中学校もおおむね同じですが、児童会の代わりに生徒会、そして部活動があるからということで、2007年の改定以降クラブ活動はなくなりました。もしかしたら将来、部活動の地域移行とともに復活するかもしれません。

 ここまで読んだらもうウンザリという人もいるかもしれませんが、ひとことで言えば、学校でやっている全活動のうち「教科」や「特別の教科道徳」「総合的な学習の時間」、及び子どもの自主的な遊びと部活動を除く、あまった活動全部が「特別活動」だと思えばだいたい正解です。
「清掃? うん、特別活動」
「身体測定? そう、特別活動」
避難訓練? もちろん特別活動」
という訳です。

【「特別活動」の授業時数は年間わずか35時間?】

 では学校はどのくらいの時間を特別活動に充てているのか――。これも学習指導要領に書いてあるのですが、実はそこに大きな問題があるのです。
 特別活動には学級会も児童生徒会も卒業式も運動会も修学旅行までも含まれるのに、学習指導要領「総則」別表第1には年間で35時間としか書いてありません。学校の年間は35週で計算しますから、なんと週1時間分しかないのです。一番新しい小学校の2017年版だと下のようになります。

2017年小学校学習指導要領(別表第1)
区 分 第1学年 第2学年 第3学年 第4学年 第5学年 第6学年
各教科

授業時数 
国 語 306 315 245 245 175 175
社 会 0 0 70 90 100 105
算 数 136 175 175 175 175 175
理 科 0 0 90 105 105 105
生 活 102 105        
音 楽 68 70 60 60 50 50
図画工作 68 70 60 60 50 50
家 庭         60 55
保健体育 102 105 105 105 90 90
外国語         70 70
特別な教科道徳の授業時数 34 35 35 35 35 35
外国語活動の授業時数     35 35    
総合的な学習の時間の授業時数     70 70 70 70
特別活動の授業時数 34 35 35 35 35 35
総授業時数  850 910 980 1015 1015 1015
備考1 この表の授業時数の一単位時間は、45分とする
2 特別活動の授業時数は、小学校学習指導要領で定める学級活動(学校給食に係るものを除く。)に充てるものとする。
3 第五十条第二項の場合において、特別の教科である道徳のほかに宗教を加えるときは、宗教の授業時数をもってこの表の特別の教科である道徳の授業時数の一部に 代えることができる。(別表第二及び別表第四の場合においても同様とする)

 年35時間なんてあっという間です。入学式・卒業式、年三回の始業式・終業式、これだけでも8時間の消費。卒業式の練習も入れると10時間は軽く使ってしまいます。
 運動会は6時間? 音楽会も6時間? おい待て、毎週学級会をやっていたらそれだけでも35時間は終わってしまうじゃないか。いやいや中学校の修学旅行なんて2泊3日。72時間とはいわないが本番だけでも60時間はかかっているじゃないか? 文化祭とその準備・練習はどーすりゃいいんだ!?

【特別活動の授業時数の大部分は隠れている】

 いやいやご心配なく、大丈夫です。別表の下の注釈2をご覧ください。そこに「特別活動の授業時数は、小学校学習指導要領で定める学級活動(学校給食に係るものを除く。)に充てるものとする。」とあります。つまり学級活動以外のすべて(小学校では児童会・クラブ・学校行事に関する活動、中学校では生徒会と学校行事に関する活動)は35時間の枠外にあるので、無理に35時間の中に押し込める必要がないのです。逆に言えば週1時間の特別活動の時間はすべて「学級活動」に充てるもので、その時間を使って児童生徒会活動をしたり運動会の練習をしたりしてはいけないのです。
 
 では学級会以外の特別活動は、いつ、どれくらいやればいいのか――これについては、学習指導要領「総則」の「(2)授業時数等の取扱い」の「イ」に、別建てで書いてあるのです。
 小学校だと、
「特別活動の授業のうち,児童会活動,クラブ活動及び学校行事については,それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てるものとする」
 中学校学習指導要領でもほぼ同じ位置に、
「特別活動の授業のうち,生徒会活動及び学校行事については,それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てるものとする」
とあります。つまり基準なし、上限なし、下限なし、学校ごと好きなように設定していいということになっているのです。

 学習指導要領に示された年間の総授業時数は、小学校高学年と中学校で1015時間です。これは週29コマ(6時間授業4日、5時間授業1日)の授業を35週間(175日)行えば達成できる数字です。それにも関わらず日本中の学校が200±5日もの登校日数を必要としているのは、そのためなのです。
 日本の学校は年間で5週間(最大145時間)も使って児童生徒会や学校行事、クラブ活動などを行っている、それなのにその特別活動のための時数はほとんど表に出てこないのです。
 (この稿、続く)