いよいよ総選挙。
今回の選挙が学校や日本の教育をどう変えていくのか、
関心を向けるには、先生たちは忙しすぎる。
しかしあと4日ほど、ちょっと立ち止まって考えてみよう。
という話。(写真:フォトAC)
【いよいよ総選挙】
いよいよ衆議院選まで今日を含めて4日となり、テレビやネットのニュースも慌ただしい雰囲気になってきました。衆議院議員選挙を総選挙と呼ぶのは、3年ごとに半数ずつ選び直す参議院議員選挙と違って全員を一斉に入れ替えるものだからですが、最長で4年も待たなければ次の総選挙は行われませんから、この機会にちょっと子どもの気を引いておきたいものです。
例えば、
「投票用紙ってのは不思議な紙で、誰の名前を書いたのか分からないようにふたつ折りにしてアルミの投票箱に入れるんだけど、実は箱の中で自然に開くようになっているんだ。昔は普通の紙だったので開票のときにいちいち開くのが大変で、しかも開いても元の真っ平になるわけではないので、作業机の上に置いておくだけでも大変だったのだよ。ちょっとした工夫だけど、それだけで作業がずいぶん早くなったんだ」
そんな話をするだけでも興味深く聞いて、選挙に関心を持つ子が増えてくるかもしれません。
右の写真は国政選挙ではありませんが、公示日直前の、ある選挙事務所の様子です。選挙カーばかりでなく、事務所の看板にも目隠しがあるのはどういう訳か、子どもに考えさせるのもいいかもしれません。
【先生たちは分かっているのか?】
政治に関心をもち、せめて選挙くらいは行こうとする人間を育てることは、学校教育の重要な責務です。しかしそれにもかかわらず、教える側の教師が十分な関心を持たず、各党の公約や、国をどういう方向に引っ張って行こうとしてるかに目を向けないのは、由々しき事態といえます――いえ、先生たちを非難しているのではありません。かつて教師だった、しかも社会科の教師であった自分自身に対する苦々しい思いが、そう言わせるのです。
もちろん言い訳はあります。とにかく日々の仕事と自分自身の子育てで忙しかった。朝は娘がハイハイの時期から一緒に登校し、横に置いてあやしながらの部活指導。8時5分にいったん外に出て保育園に入れると再登校。丸一日働いて夕方も部活を見て7時半までに帰宅(娘は妻が回収)、夕食、入浴、娘と自分の就寝準備・読み聞かせ、寝かせつけ。そのまま寝落ちして午前3時に起床。そこから持ち帰り仕事を始めて6時終了。朝食を食べて娘の登園準備をし、それから朝部活へ出勤。
新聞は取っていましたが朝食を食べながらざっと目を通すだけで、公約や選挙情勢など十分に検討する時間は到底なかったのです。
到底なかった――それは確かですが、いま改めて思うのはどんなに忙しくてもやはり見ておくべきだった、よく見てよく考え、抗議すべきは抗議しなくてはいけなかかったということです。
私が学校と子育てに心を奪われている間に、ゆとり教育が実施され、ゆとり教育が見直され、追加教育が矢継ぎ早に増やされ、夏休みが研修で埋められ、給与は下げられた、のです。なぜあんなことを唯々諾々と許してしまったのか――。自分に対して冷たい言い方をすれば、その時の自分にかまけていて、未来の教師の道を塞いでしまったのです。
小泉純一郎氏が「聖域なき行政改革!」と叫んだら、「学校は聖職者が住まう聖域。手を触れるな」と逆らい、安倍晋三氏が「教育再生!」と言ったら、「教育は死んでいないだろう。今も世界最高を保っているだろう。死んだというなら証拠を見せろ」と迫ればよかったのです。「健康に生きている体にメスを入れるな!」それを黙ってやり過ごしてしまったばかりに、今はこの始末です。
それでも昭和のうちは組合活動も盛んでしたので、机の上には選挙公約や情勢を簡単にまとめたリーフレット等が繰り返し置かれていて、その気になれば調べることは簡単でした。しかし今はそれもできません。
【選挙公約の読み替え訓練をしておけばよかった】
あの時期から各党の選挙公約が、わが身にとって、あるいは学校教育にとって、どういう意味があるのかをきちんと考え、読み替えをするような癖をつけておけばよかったのです。
「聖域なき行政改革」→「文科省の職員及び予算を減らすから、そのぶん学校は自力でがんばれ!」
「ムダな予算の見直し」→「すぐに結果を出せない少人数教育や不登校対策の人件費は減らすからよろしく」
「人件費の削減」→「教員給与の減額」もしくは「教員定数を絶対に増やさないことで対応」
「減税」→「同じく、公務員の減給もしくは人員削減」
――私は公務員でしたから、安易に「減税」を良いものだと考えてはいけなかったのです。
【今回の選挙では】
さてそうした前提にたって今回の総選挙の公約を見ると、とにかくどの政党も「無償化」のオンパレード。
(自民)幼児教育・保育の無償化推進、高校生などへの就学支援充実。
(公明)0~2歳児の保育料を全世帯で段階的に無償化。私立高校を公立高校と同様に年収910万円未満の家庭にまで段階的に無償化。
(立民)すべての就学前教育の無償化。高校授業料無償化の所得制限撤廃。
(維新)幼児教育から大学までの全過程の完全無償化。
(国民)幼児から高校までの教育無償化。
(れいわ)幼児から大学生までの保育・教育は完全無償化。
多くの政党が給食の無償化も公約に取り込み、維新などは学校に来られない児童生徒が個人として使わなかった分の学校教育費を実費で子どもに渡し、塾代にしてもらおうという「教育バウチャー制度」の導入・普及まで公約としています。もしかしたら将来、公立に行かずに私学に行った子についても、バウチャーを与えようという話になるかもしれません。もちろん予算が増えるわけではありませんから、現在の学校教育費から回すだけです。
一方で財源の方は国民民主党が「教育国債」を打ち出している他にはこれといった言及がなく、逆に「消費税を当面5%に減らし、やがてなくします」といったふうに減税を強く示唆する党も少なくありません。
支出は増やすが収入は増やさない――その矛盾をどう解消するかというと、共産党などが「お金持ちと大企業に出してもらいましょう」などと能天気なアイデアを出しているものの他はほとんど言及なし。
「徹底的な歳出の見直し――」
やはり最後は公務員の給与を押さえるか数を減らすことで対処するしかなくなります。すでに「時、遅し」とはいえ、せめて明日・明後日(金・土)くらいは選挙公報を読み、学校がどういうふうに変わっていきそうなのか考えておくといいでしょう。
私はやらなかったのにそう言っておきます。
(参考資料)