カイト・カフェ

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「私はオリンピックが見られない」~運がなければ勝者にはなれないが、勝者になれば幸せになれるとも限らない

 パリ・オリンピックが始まった。
 しかし根性なしの私は、贔屓の選手が負けるのが怖くて、
 テレビも見られないのだ。
 敗者もときの運がなかっただけだと、分かってはいるのだが――
という話。(写真:フォトAC)

【私はオリンピックが見られない】

 2024パリ・オリンピックが始まりました。ところが私はこういうスポーツ大会を観戦するのがとても苦手なのです。贔屓の選手が負けるのを見ていられないのです。例えば昨日の池江璃花子。ネット・ニュースで、
「レースを終えるとタオルで顔を覆い、プールサイドに座り込んだ。約10分間、涙が止まらず、インタビューでは問いかけの後15秒間、絶句した」2024.07.27デイリー「準決勝敗退の池江璃花子は号泣」)
 などという文章を読むとたまりません。リアルタイムで映像を見なくて本当によかったと思いますし、VTRでも見る気になりません。デイリーにはまた「準決勝後、涙しながら、萩野公介氏と抱き合う池江璃花子」という写真があり、萩野氏の何とも言えない表情に心動かされます。

 実は私には萩野公介池江璃花子は恋人同士ではないかと思い込んでいた時期があるのです。それは2019年の2月12日、池江の白血病が公表された日、取材記者に取り囲まれた萩野公介はニュースを全く知らず、マイクを向けられて「池江がですか? 池江璃花子がですか」と言ったきり何も言えずに終わった様子を覚えているからです。
 その時期やや調子を落としていた萩野公介は後に絶不調に陥り、2023年の東京オリンピックは出場こそすれ、全盛期に比ぶべくもない低成績のまま引退しました。今回のパリ・オリンピックでメダルを目指している瀬戸大也とは幼少期からのライバルで、ほとんど負けたことがなかったと言えばどれほど強かったか分かろうというものです。東京オリンピックでは個人メドレーの他フリーやバタフライで5個も6個もメダルを取り、日本の水泳の歴史に巨大な名を遺す人だと私は信じていたのですが――。

 萩野は池江の病気が公表された2019年の秋にシンガーソングライターのmiwaと結婚(1児をもうけたのち離婚)したので私の「萩野―池江」恋仲説は間違っていたことになりますが、今回の写真をみると改めて「荻野は池江を大切にしていたんだなあ」という思いになります。
 私もテレビを通して2019年の発症以来の池江璃花子の苦労、中でも東京オリンピック以来の3年間の苦悩を見てきましたので、写真の萩野の背後から被さって、一緒に池江を抱きしめたい気持ちでいっぱいになりました。

【何が足りなかったのか】

 もちろん池江璃花子自身は2019年に病気にならず、翌2020年に予定通り東京オリンピックが開かれていたら、ひとりで7個も8個もメダルを獲れた逸材です。今の不調の原因は病気の影響から十分に回復していなかったためか、そもそも一度罹ったら2度と国際的な競技者に戻れないような病気だったのか、あるいは病気がなくとも2024年はピークを大きく過ぎて現在と同じ状況になっていたのか、それは誰にも分からなことです。けれどおそらく、何らかの形で池江のこの3年間、あるいは5年間を見てきた人なら、
「池江の努力が足りなかった」
という人はいないでしょう。

 オリンピックは世界の最高峰の選手権ですから、そこに登場するすべての人が才能溢れる、努力の人です。その最高峰の人たちが一堂に会して、互いを削ぎ落して行くわけですから、すさまじい世界です。
「努力はひとを裏切らない」
といいますが、それが「努力は必ずひとを勝利につなげる」という意味に解するならとんでもない思い違いということになります。銅メダルリストは銀メダリストに、銀メダリストは金メダリストに、それぞれ努力において劣ったという訳ではありません。しかも持って生まれた才能が、金銀銅の差をけるという訳でもありません。

 池江璃花子の場合は“運が味方をしなかった”というしかありません。あの日病気にならず、あのとき東京オリンピックがきちんと行われていれば、今日負けてもこれほど悲惨なことにはならなかったはずです。
 では敗れた選手のすべてが、“運が悪かった”というだけのことだったのかというとそれも違うでしょう。おそらく正しい答えは、
「才能に恵まれた者が最大の努力をし、その上で最も運に恵まれた者が最終的な勝者となる」
というだけのことです。
 少なくとも2020年の池江璃花子は“運”だけがなかった、そう考えるしかありません。同じ敗者でも運ではなく才能や努力において劣った者ももちろんいました。

【勝者だから幸せになるとは限らない】

 さらに言えば、勝者が必ずしも幸せになるとは限りません。
 オリンピックや世界選手権の金メダリストとして選手生活を終える人もいますが、多くがさらなる勝利を求めて挑戦し、いつかは敗者としてそれぞれの舞台を離れていきます。そのあとの人生はまた別です。
 オリンピックではありませんがそれぞれの世界で最高点に立ち、そして没落していった人はいくらでもいます。
 マイク・タイソン(ボクシング)、O・J・シンプソンアメリカン・フットボール)、オスカー・ピストリウス(陸上パラリピアン)・・・。 

 プールから上がったばかりの池江璃花子も4年後を誓っています。
 しかし帰って来られても来られなくても、この先勝てても勝てなくても、幸せになってほしいものです。
 
【追記】
 柔道の阿部詩さんも負けてしまいました。ここでもテレビを見ていなくて良かったと思うコンジョウナシです。