カイト・カフェ

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「日本のハダカが世界を圧倒する」~素晴らしきネット社会の人生② 

 世界の片隅の文化だった日本食が世界の中心へ躍り出て、
 だれも見向きもしなかった日本酒がもてはやされそうになる。
 そして今、
 日本の”笑い”も、見直されるかもしれない。
 という話。(写真:フォトAC)

【マイブーム1番】

 現在の私の、一番のマイブームは「とにかく明るい安村」です。
「ネットは時空を越えるとか、“情報の溜まり”へのアクセスとか偉そうなことを言いながら、結局は一番新しいこれかい?」
――みたい話ですが、とにかく今はイギリスで「トニカク」を名乗って大活躍した「とにかく明るい安村」が私の最新のマイブームなのです。

 情報は今や島宇宙と化していますから、こんな有名な話を知らない人もいるかもしれませんし、これが有名な話と思っている私自身が辺境の島宇宙の住人かもしれないので簡単に紹介しておくと――、
 日本ではスーザン・ボイルを発見したことで知られるイギリスの人気オーデション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」に日本のお笑いタレント「とにかく明るい安村」が出場し、有名なあの裸芸を披露して大喝采を浴びたという話です。

 細かく言うと、審査員をして「今年になって一番面白い」と言わしめたトニカク(イギリスでの芸名)は、予選では満点をとって準決勝に進むも3位敗退。しかしワイルド・カードで決勝に復活進出して、優勝こそ逃しましたが三度、大喝采を浴びたのです。それが昨日までのニュースでした。

 そのときの予選出場を下に、準決勝、決勝のYoutube映像もありましたのでさらに下にリンクを張っておきます。

準決勝
Don't worry... Tonikaku's STILL WEARING! | Semi-Finals | BGT 2023 - YouTube

決勝
It's the SUPERHERO we all need: Tonikaku | The Final | BGT 2023 - YouTube

【20年前には考えられないこと】

 私がこのニュースに魅かれるのは、20年前にこのことが起こったとして、評判になったことをニュースで知ることはできても、具体的にどんな演技をしてどのようにウケたのか、それを知ることはとても難しかったと思われるからです。

 今までも世界で活躍した日本人がいなかったわけではありません。
 私が若かったころでいえば、最近亡くなった坂本龍一氏が属した「イエロー・マジック・オーケストラ」がワールド・ツアーを行い、ニューヨークやロンドンで大絶賛されましたし、PUFFYパフィー)はアメリカで自らをモデルにしたアニメ番組さえ持っていたのです。
 それなのに当時YMOの動画に接することはほとんど不可能で、ニュースやニュースバラエティで扱われたにしても短時間だったり見逃したりすることが大半。PUFFYのアニメに至っては、私は静止画を一枚見ただけで、ほんとうにやっていたかどうかもわからなかったのです。いまでは両方ともYoutubeで見ることができますが。

YMO ライブ アット グリークシアター
Hi Hi Puffy AmiYumi Episode 1 

 もちろん「とにかく明るい安村」の件は、単に「昔なら見られなかったのに今は見られる、だから夢中になった」というだけのことではありません。なんといってもこの出来事が私の中にある民族主義ナショナリズム)を刺激するからです。

【日本のハダカが世界を圧倒する】

 たとえどんな形にしろ、同胞が外国を圧倒する姿を見るのは痛快なことです。しかも真面目・誠実・時に堅物と定評のある日本人が、笑いでイギリス人を圧倒したのです。面白くないわけがありません。

 私が大人になりつつあった1960年代から70年代にかけては、まさに高度成長期の真っ最中でした。唐突に小金持ちになった日本人は団体旅行パックで大挙して欧米に出かけ、デパートや宝飾品店で金に任せてものを買い漁ります。ついこの間までの中国人観光客と一緒です。
 旅行慣れしていないためにホテルの使い方もままならず、バスルームをびしょ濡れにしたかと思ったらパジャマ姿のまま廊下に出て来たり、あちこちに迷惑をかけて進むその姿はエコノミック・アニマルと呼ばれるほど滑稽で顰蹙を買うものだったようです(ホントかどうか知りませんが)。
 そのころの日本人のイメージと言えば、短躯・ガニマタ、出っ歯でツリ目。黒縁メガネをかけて首からカメラを提げ、いつも団体で行動するといったひどいものでした。めったに笑うこともなく何を考えているかも分からない。しかしこちらが強圧的に出れば、へらへらと笑って誤魔化す――そんな感じです。

 それから半世紀、日本人のイメージはずっとよくなり、国際的には受け入れられやすいものになりました。しかしあんなふうに裸で明るく人を笑わせることのできる民族という印象はどこにもなかったでしょう。裸と言えば「ゆんぼだんぷ」も出たことがありますが、こちらの方は極めて日本的だったように思います。

 「とにかく明るい安村」の芸は真に独創的で、あの顔立ちと体形がなければずっとつまらないものになってしまう個性的なものです。一度ネタがバレてしまうとあっという間に感激の薄れる賞味期限の短い芸で、それだけに優勝というわけにはいきませんでしたが、これを機に日本のひとつの文化として「お笑い」もまた、世界に出ていくといいなと思ったりもしました。
 トニカクに合わせて「パーンツ!」と叫ぶ二人の女性の、屈託も品もない笑いはとても好きです。

 『ブリテンズ・ゴット・タレント』の「とにかく明るい安村」を日本人と英語という側面から論考したのが日本経済新聞の記事「とにかく明るい安村が“丸裸"にした日本人の幻想 世界中の人が大爆笑した安村さんの英語の秘訣」でした。英語教育を考える人にはとても役立つ記事ですので、ぜひご一読ください。イギリスにもいろいろな英語をしゃべる人たちがいるという話です。

toyokeizai.net

(この稿、続く)