カイト・カフェ

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「若者の恋愛事情は上位3割が表現する」~若者の進みすぎた性生活と、あまりにも遅れた若者の話②  

 若者の恋愛状況を表現するのは、
 常に恋愛カーストの上位30%だけである。
 1970年代も、狂乱の80年代も、
 そして暗黒の90年代も、
 という話。(写真:フォトAC)

【「恋愛強者」は全体の3割】

「令和4年版男女共同参画白書」「20代の若者の『デート経験なし』は4割以上」というデータ、そして2021年の「出生動向基本調査」による「18-34歳の独身男性の『性体験なし』率は44.2%、女性は49.4%」という数字、この二つの存在を教えてくれたのは荒川和久というコラムニストです。自称独身研究家で通っているみたいです。
 
 この人の主張にはいくつかの核があるのですが、そのひとつは「ここ40年余りの間、若者の恋愛状況はほとんど変わっていない」というものです。多少の曲折はあるものの、昔の若者の「デート経験なし」も4割程度だったし、18歳~35歳の男女の「性体験なし」40~50%も似たようなものだというのです。さらに言えば若い男女のうち、豊かな恋愛体験を持つ「恋愛強者」と言っていいような人たちは全体の3割程度で、残りの7割の大半は恋愛弱者と呼ぶべき人たちだと言うのです。
 
 こうした主張には情緒的な反論もあって、「いやオレはかなりモテた」とか「いくら何でも自分の世代に『デート経験なし』4割はあり得ない」とかいうオジサンが絶えないようです。しかし荒川は決然と「それは思い違いだ」と言い放ちます。私も実感として、荒川に与します。

【1970年代の青春】

 私自身は大学に入学した翌年に第1次オイルショック、就職しようとしたら第2次オイルショックと経済的には恵まれない時代に学生生活を送りました。わずか1年で物価指数が11・7%(73年)、23・2%(74年)と上がる時代に、しかもデートの費用は男性がもつという文化も残っていましたから、恋愛の入り口でかなり苦しかったのです。
 もちろん恋愛に手続きのいらない「恋愛強者」たちは72年~73年にマンガ週刊誌に連載された劇画『同棲時代』や73年にヒットした『神田川』に触発され、『同棲』という安上がりな関係を築くことができましたが、一般の若者はそういうわけにはいきませんでした。
 
 周辺を見ても大学入学前に結婚したという猛者ひとりを別とすれば、半同棲の友人が一組、あとは今でいう“ぼっち”生活者ばかりです。
 その時代に「デートの経験はありますか?」と訊かれれば、確かに一緒に食事をしたり飲みに行ったりする女友だちはいましたし、遊園地に行った、中華街へ行ったということはあったものの、デートだったかと言われると戸惑います。少なくとも相手の気持ちまで考慮すると「デート」と言いにくい状況があって、おそらくアンケートには「経験なし」と記入したことでしょう。

【80年代の若者たち】

 私たちの次の世代、1980年代を二十歳代として過ごした人々は、まさに恋愛至上主義、バブル景気の申し子です。
 トレンディドラマが恋愛の基準を示し、クリスマス・イブは一流ホテルの部屋を予約して、雪の降る東京タワーを見ながら二人でユーミンの『恋人がサンタクロース』か山下達郎の「クリスマス・イブ」を聞く、それが最大級の愛情表現で、男たるもの限りなくそれに近づけて行かなくてはならない、そう信じられていた時代です。
 ドラマ『男女7人夏物語』が1986年、「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」がバブル崩壊の1991年と言えば雰囲気も伝わってくるでしょう。
 
 しかし一方で「アッシー君」(運転手代わりの男性)が1990年の流行語大賞に選ばれ、「メッシー君(食事の奢り役)」や「ミツグ君(ひたすら貢ぐ人)」という言葉があったのは、彼らが尽くした女性たちが決して彼らのことを本気で相手にせず、さらに上の層にしか興味がなかったことを表しています。
 結局「アッシー君」や「メッシー君」は7割の「恋愛弱者」の一部に過ぎませんでした。クリスマス・イブに予約できる一流ホテルの部屋は、全国に何十万室もあるわけではなかったのです。

【90年代に至って詰まる】

 さらに次の世代、1990年以降を青春の舞台とした人たちの恋愛事情は本当に悲惨でした。私はこの世代に借りがあります。

 細かく言えば私が初めて教員なったのが1983年(昭和58年)。中学校の1年生の担任で、その子たちが卒業したのは1986年(昭和61年)でした。そのあとの再び1年生の担任に戻って、1989年(平成元年)、1992年(平成4年)、1993年(平成5年)と4回の卒業生を出しています。
 最初に卒業させた子どもたちの中で、3年後の1989年(平成元年)、高校卒業と同時に就職した人たちはかろうじて間に合いました。しかしそこから大学へ進学して1993年以降に就職しようとした人たちはダメです。バブル経済は崩壊し就職超氷河期が始まっていたからです。

 職がなかったりあまりにも所得が少なかったりすれば、男性は女性に声をかけるのを躊躇います。収入の目星がついてしまう職場の中ではなおさらです。金がないなら、ないなりに引き合わせや説得をしてくれる仲人・相談所といった仕組みも、恋愛至上主義のバブル世代に完全に潰されてしまっていました。
 つまりこの時期に『恋愛強者』でいられたのは、数少ない機会をものにして普通に豊かな経済力をものにした少数者と、身の程知らず・世間知らずの乱暴者だけです。後者については、したがって結婚も一度では済まず、もしかしたら統計的な結婚数だけは多少回復させているのかもしれません。

 この人たちについては以前、考えたしたことがありますので、これ以上は扱いませんが、実に大変な苦労をした子たちでした。
(この稿、続く)
(参考)

kite-cafe.hatenablog.com