同い年だということは死ぬまで同じ時間軸を生きるということだ。
同じ世界を見て、同じ社会を体験しながら、別の生き方を続ける。
友よ、旅に出よう。そしていつか年老いた日にまた会おう。
そのときこそ盃を傾け、見てきたこと感じてきたことを語り合うのだ。
という話。(写真:フォトAC)
【別の場所で同じ時代を生きてきた】
先日の伯母葬儀の際、久しぶりに会った従兄が奥さんを伴っての参列で、その夫婦と少し話をしました。その際、どんな流れだったのか年齢の話になり、従兄の配偶者が私と同い年だということを知りました。そのとき、私の中に起こった不思議な連帯感というか同族意識というか、あるいは懐かしさといったものについて、うまく説明できずに困っています。
感覚的な部分は説明できます。
具体的に言えば、その女性は私と同じ歴史の中を、同じ時間軸で生きてきたということ。同じ第一回東京オリンピックを小学校4年生で経験し、実際に行ったかどうかは別として大阪万博を高校1年生の夏に経験し、三島由紀夫の自決に震え、高校三年生も最後の最後、1月にグアム島で元日本兵が発見されたことに驚き、翌月札幌オリンピックのスキー・ジャンプ表彰台独占に感動して、さらに3月、日本赤軍のあさま山荘の攻防に一日中、目を奪われていた同じ胞(はらから)なのです。
売り出したばかりのカップヌードルを食べて、ブームのボーリングに興じ、「また会う日まで」(尾崎紀世彦)や「わたしの城下町」(小柳ルミ子)、「花嫁」(はしだのりひこ)を歌った仲間です。
ところがほぼ完全に重なる人生経験をしながら、私たちは一度も触れ合うことなく、何も共有することなく、50年過ぎて今ここにいるのです。
――そこに激しく心を揺さぶられました。
しかしその感動は話しても従兄の配偶者にはまったく伝わりませんでした。そういうものなのかもしれません。そしてもうひとつうまく説明できないのは、同い年の人間なんてこれまで何十人、あるいは何百人にも会ってきたのに、こうした感覚に襲われたのは今回が初めてだということです。
従兄の配偶者が特に魅力的だったとかそういう問題ではなさそうですし、こんどまた誰か同い年の人に会ったら同じ感覚に襲われるかというと、これが案外その通りになりそうな気もするので不思議です。
70年近く前にまだ何者でもなかった赤ん坊たちが、しばらく同じような育ちをしてからあちこちに散らばってそこでさまざまな人生経験をし、再び何者でもない高齢者に戻って集まり「おかえりなさい」、そんな感じかもしれません(まったく説明になっていませんね、ハハ)。
【卒業生の見てきた3年間の世界】
さて、この3月に卒業式を迎えた中高生は、生徒だった3年間のすべてをマスクで過ごした最初で、そしておそらく(願わくば)最後の中高生です。いや中高生だけでなく、小学校の卒業生も高学年の3年間を、大学生も学生生活の大半を、マスクで過ごしたという意味では特別な体験をした仲間でしょう。
3年前の2020年4月、新型コロナ緊急事態宣言の中で入学式を迎え、5月には京アニ放火殺人で慄然とさせられ、7月にはレジ袋が有料化されました。九州の球磨川流域で大きな水害があったのも、藤井聡太7段が最年少タイトルをとったのもこの月です。
8月、安倍晋三首相は持病の悪化を理由に辞職し、翌月、ドコモ口座が問題となりました。ドコモ口座なんて覚えていない人も多いでしょうが、日本人のほぼすべてが被害者になるかもしれないということで、一時はたいへんな騒ぎだったのです。
10月には「鬼滅の刃」が興行収入100億円を最短で突破し、たくさんの子どもたちがトイレットペーパーの芯を咥えて走り回るようになりました。
翌2021年になると2月からようやく新型コロナ対応ワクチンの接種が始まります。絶対に受けてはいけないという人もいました。
3月にはセンバツ高校野球が無観客で2年ぶりに行われ、8月には第二回の東京オリンピックが、これも無観客で開催されて58個ものメダルを獲得しました。その直前の7月、静岡県の熱海市で起こった土石流災害で27名もの方が亡くなったことも忘れられません。
9月に白鵬が引退し、10月には真鍋淑郎さんがノーベル物理学賞を受賞し、眞子さまと小室圭さんが結婚したことも共通の記憶となるかもしれません。
2022年は2月の北京冬季五輪で金3個を含む18個のメダルを取るといった明るいニュースで始まりました。しかしオリンピックの終わると同時にロシアがウクライナに侵攻し、以後、エネルギー価格の上昇といった直接的な影響も含め、今日まで世界と我が国に暗い影を落としています。
4月からは改正民法のおかげで成人年齢が18歳に引き下げられ、高校3年生の同じ教室内に成人と未成年が混在するようになりました。同世代の佐々木朗希投手が完全試合をしたのもこの月です。同月、知床半島では観光船が沈んでいます。
7月、安倍晋三元総理が銃撃され亡くなりました。その後、統一教会の問題が大きく取りざたされ、対応が長引いています。
8月には大谷翔平選手がベーブ・ルース以来の二けた勝利二けた本塁打を記録し、10月にはヤクルトの村上様が本塁打記録をつくるとともに三冠王も獲得しました。
11月は日本中がサッカーワールドカップに熱中しました。
今年(2023年)に入ってからは1月に新型コロナを「5類」に引き下げる(5月8日から)ことが決まりコロナ禍に終わりが見え始めました。
2月にはフィリピンからルフィーを名乗る首魁を中心とした詐欺・殺人グループの何名かが帰国し、上野のシャンシャンたちは中国に返還されました。新たに宇宙飛行士2名が選抜されたのもこの月です。
【今こそ別れめ、いざ、さらば友よ】
この三年間の、代表的な国内のできごとだけでもこれだけあります。海外に目を移せば英国のEU離脱やトランプ政権の終焉、エリザベス女王の在位70周年記念式典と死去と国葬が同じ年にあったことや、あるいは若い人には韓国・梨泰院の雑踏事故の方が深く記憶に刻まれるかもしれません。
ここには書きませんでしたが、ファッションや音楽、ドラマや映画、学校や地域で起こった特別なこどどもなども、とうぜん共通の体験として記憶されるはずです。
いずれにしろ学齢期にあったり学徒であったりする限り、同い年で経験することや進む方向に大きな差はありませんでした。それがこのあと散弾銃を放つように、一斉に広がっていくのです。
そしていったんはバラバラになって、やがて高齢者という一括りの中に戻ってきます。最後は死がすべてを元に戻してしまうでしょう。
若き人たちよ、互いに告げ合おう。
今こそ別れめ(別れよう)、いざ、さらば!
そしていつの日かまた会おう、
と。
*学校の暦に合わせて営業するカイト・カフェも春休みに入ります。
再開は4月3日(月)を予定していますが、いつもの通り、話したいことがあればまた営業をしますので、よろしくお願いします。