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「近未来の教師は、電子所見の夢を見るのか」~ChatGPTが不快な件③

 ChatGPTは中身のないおしゃべり外人みたいなもの、
 しかし口はうまいので何となく不安視されている。
 例えば学生が論文づくりに悪用すること。
 だがむしろ、心配なのは教師が通知票づくりに使うことの方だ。
 という話。(写真:フォトAC)

【ChatGPT=中身のないおしゃべり外人】

 ChatGPTが嘘をつくという件については、あとふたつほど例を挙げておきます。

問1 松本潤井上真央はいつ離婚した?
答1 私は2021年までの情報しか持っていないため、松本潤井上真央がいつ離婚したかについての情報は持っていません。また、個人のプライバシーを尊重するため、彼らのプライベートな問題についてはコメントしません。

問2 松本零士の亡くなったのはいつ?
答2 松本零士という人物が具体的にどの方を指しているのかによって異なりますが、一般的には日本の漫画家・アニメ監督である松本零士氏のことを指していると思われます。
 松本零士氏は現在も存命中で、2023年3月現在、健在であるとされています。過去に何らかの誤情報が拡散された場合には、その点についてはお詫び申し上げます。
 
 問1の正しい答えは「私は2021年までの情報しか持っていないため、松本潤井上真央いつ結婚し、いつ離婚したかについての情報は持っていません」でしょう。少なくとも2021年に未婚だった二人の離婚について語っておいて、結婚について語らないのは詐欺の匂いが芬々です。
 また「2021年までの情報しか持っていない」と言いながら、問2では「(松本零士は)2023年3月現在、健在」と今月について語るのも何ともまやかしっぽい。さらに松本零士は今年2月15日に亡くなっているはずで、それを誤情報だとChatGPTに謝られても困ります。
 
 どうやらこのプログラムは人間の質問を完璧に理解し、完璧な日本語で返すことにこだわっても肝心の中身についてはあまり関心がないみたいです。流ちょうな日本語でペラぺラとどうでもいい話をまくし立てる変な外人と同じで、信用するに値しません。

【近未来の教師は、電子所見の夢を見るのか】

 ところで、ChatGPTがテレビで初めて紹介された際、文章作成が上手という特性を生かして大学生がレポートや論文をChatGPTに書かせて提出したらどうするのか、といった点が話題になりました。これにはほどなく完璧な回答が用意されてきて、レポートをChatGPTに読み込ませ、「これ、お前が書いたの?」と質問すればいいのだそうです。すると「98・5%の確率で私が書きました」といったふうに返事が返ってくるので、学生にその事実を突きつけ、血祭りにあげればいいのです。周辺の学生は恐れてこの方法に近づかないでしょう

 心配はむしろ教官・教員の側にあります。保護者に出す学年だより・学級だより、あるいは通知票や指導要録の所見欄をAIに書かせる教師が出てきたらどうするんだ――と気にかけていたら早速ネットにやり方を上げた方がおられます。

note.com

 「Googleフォームで保健室の来室記録をつくろう」とか「音読カードをつくろう」とか言って実際に作成していますから間違いなく現役の教師で、「APIを取得してChatGPTとスプレッドシートを組み合わせよう」とか難しいことを言いますから、かなりのコンピュータ使いです。
 
 このひとがChatGPTに、
「体育のとび箱をがんばった児童への所見を書いて下さい」
とお願いすると、
「以下は、体育のとび箱をがんばった児童への所見の例です。
 ◯◯君/さん、跳び箱がんばりましたね!姿勢がよく、着地もきちんとしていて素晴らしかったです。また、挑戦するたびに高く飛べるようになっていて、その成長ぶりには感心します。とび箱の技術がますます向上することを期待しています。今後も頑張ってください!」
と返してきた例を示しています。
 
 さらにいくつか書いてほしい場合として、「いくつかの文例を示してください」と書くと、チャットですから前の文も参考に、手替え品替えで3通りのほどの文章を示してきます。あとはそれをコピー&ペーストで通知票に書き写せばいいだけです。
 記事の作者はさらに、一気に大量の所見をChatGPTに書かせ、それをスプレッドシートGoogleの提供するExelのようなもの)に書き出すという方法も示して見せます。
 すごいと言えばすごいやり方です。

 では今後、教師たちの一部がChatGPTなどを使って所見を書かせ、それを通知票に張り付ける時代は来るのでしょうか? ――私は「かなり眉唾だが、そういう時代が来てもいい」と思っています。というのはこのやり方、意外と大変で、それだけに良い結果を生み出すかもしれないからです。

【やはり所見はAIより人間の方が早い可能性】

 昨日から申し上げていますが、ChatGPTは作文こそものすごく上手ですが中身が不誠実です。先ほどの体育の所見も児童がとび箱をがんばった事実が鮮やかに表現されているものの、その子が「挑戦するたびに高く飛べるように」なったかどうかは別問題で、同じ「がんばった」でも、「一回も跳べなかった子がようやく一回跳べて自信をつけた」というような場合だと提案は使えません。もちろんそのために「いくつかの文例を示してください」と数を求めることになるのですが、そうなると今度は選択という作業が生れてきます。これが思ったより大変なのです。

 新人の先生の中には教育雑誌の付録か何かで「総合所見文例500」とかいうのを見て、実際に使ってみた方もおられるでしょう。でもどうでした? あれ、ダメだったでしょ? 
 30人の児童を500の文例と対照すると15000通りにもなってしまうのです。実際には全部を対照したりはしませんが、それでも1000回か2000回はやることになります。するといつの間にか頭が「文例脳」になって、500から選んで書き移すより自分で考えた方が早くなっているのです。文章のリズムとか内容とかが、身体に染み付いてしばらく「ノリノリ」状態なのです。
 教員になろうという人で文章がまったく書けないひとはまずいませんからそれで十分です。ChatGPTにたくさん文例を出させたあとで選ぶより、「総合所見文例500」でも買いに行った方が早いのです。

【ChatGPTを有効に使ったすばらしい所見の可能性】

 ただChatGPTを使った通知票の所見生成に、もっと優れた可能性もないわけではありません。それは予めたくさんの事実を集積しておいて、AIの力を借りて一気に文章にしてしまう方法です。
「休み時間も練習して逆上がりができるようになった」とか「算数では余りのある小数の割り算に優れていた」とか「国語の詩の読み取りで、誰も思いつかない優れた感想が持てた」とか、日常のこまごまとした記録を丁寧に取っておいて、ChatGPTには「スプレッドシートの記録を全部読み取って、それをまとめて400字以内の文章にしてください」と依頼すればいいのです。
 記録がきちんとしたものなら10分足らずで、それぞれの子をきちんと把握・表現したすばらしい所見を30人分、すぐに書きあげてくれるでしょう。これだったら誰も文句のいえないすばらしい実践ということになります。

 ただし私はそんなふうに丁寧に記録を残すタイプではありませんから、通知票の時期になったらあれこれ資料を突き合わせながら思い出し、ひとりひとりに時間をかけて所見を書く方が向いているみたいです。おそらく普通の教師の大部分が、しばらくは私と同じ道を歩むのではないでしょうか。

(この稿、終了)