カイト・カフェ

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「萩生田政調会長!給食のことは放っておいてください」~黙食は何が何でもやめさせなければならない重要案件なのだろうか

 6人の小中学生が自民党の萩生田政調会長を訪ねて、
 給食の黙食をやめてほしい気持ちを伝えたという。
 しかし黙食は喫緊・最大の教育課題なのだろうか?
 そもそも黙食ってそんなに悪いことなのか?
 という話。(写真:フォトAC)

【小中学生、陳情に走る】 

 先週金曜日のNHK「NEWS WEB」に「“おしゃべりしながら給食を” 小中学生が要望」という記事がありました。
 内容はタイトルそのもの、それ以上でも以下でもありませんが、ほんとうに字面通り「みんなとおしゃべりをしながら給食を食べたい」と、たったそれだけのことを訴えるために、神奈川県と群馬県から6人もの小中学生が自民党本部を訪問し、萩生田政調会長も時間をとった上にNHKまで入れて取材させたとしたら、「これはまったく世も末だな」という気もしないでもありません。

 せっかく自民党の重鎮が相手にしてくれるのだから、
「私のクラスは、いま担任の先生がいません。教頭先生が片手間に授業をやってくれています」
とか、
「部活が地域に移行すると言っているけど、引き受け手が誰もいません」
とか、
「ランドセルが重くて大変だけど、学校に荷物を置いておくロッカーが足りません」
とか、訴える喫緊の課題はいくらでもあると思うのですが、選りに選って黙食の緩和とは――。この会合を設定した人の感覚が疑われます。他の大人たちも、何の助言もしなかったのでしょうか?

 もっとも萩生田政調会長自らも、
「多少のおしゃべりをしながら楽しく食べられる環境を作ってもらえるように文部科学大臣にもお願いしたいと思います」
と呑気な様子ですし、もともと「国際会議でマスクをしているのは日本人だけだ」「科学的知見に基づき、コロナとの対峙(たいじ)の仕方を考えなければいけない」2022.11.23 産経ニュース)と、マスクや黙食の効果に疑念を持ち、現在進行形の第8波に対しても「行動規制をかけず、ウィズコロナで乗り越えよう」という人ですから、政調会長の方から持ち掛けた話なのかもしれません。

 いずれにしろ黙食を解いたあとでクラスターが発生しても、
文科省は『座席配置の工夫や適切な換気の確保などの措置を講じた上で、給食の時間において、児童生徒などの間で会話を行うことも可能』と言っただけで『会話をしろ』と言ったわけじゃない。クラスターが発生したとしたらそれは『座席配置の工夫や適切な換気の確保などの措置』が講じられていなかった証拠で、文科省が悪いわけでも政調会長が悪いわけでも、ましてや子どもたちが悪いわけでもない。学校が悪いのだ」
 そう言っておけばいいのですから気楽なものです。

【黙ったままで食べたのではなぜいけないんだ?】

 私は子どもたちが黙って食べる給食がなぜいけないのか、どうしても分からないのです。
 小学校の学級担任をしていたころ、隣のクラスの担任は若く美しく溌剌とした女性でしたが、なぜかとても恐れられていて、給食の時間も静かで箸の音が響くだけでした。そのことに気づいて自分のクラスに行き、
「おい! 隣のクラスはみんな静かで、箸の音しかしなかったぞ」
と言ったらその瞬間から、私のクラスは一斉に箸で食器を叩き始め、いつまでもやみませんでした。

 そんな悠長なクラスですから、普段の給食もいつまでも終わらない。しゃべるための口の動きが食べるための2倍もあるのですから、食事が一向に進んでいかない。必然的に食事の終わりはバラバラになってしまいます。
 それで困るのが給食当番。全員が食べ終わるのを待っていれば昼休みに遊ぶことなんかできなくなります。担任は仕方ないのである程度のところで片づけさせ、食べ終わらない数人は終わり次第自分で食器を給食室へ運ばせるようにします。あの、一人分の食器を抱えて廊下を走る児童はこうして生まれます。

 ところが隣のクラスは「いただきます」から15分程度で「ごちそうさま」になり、数分で給食当番は全部を片付け、あとはみんなで元気に外に遊びに行ってしまうのです。楽しくおしゃべりをしながら食べていた私のクラスの数人は、年間を通じて休み時間に遊ぶことはできません。食べているからです。給食当番の子も隣のクラスに比べれば毎日10分近く、昼休みの時間が短いのです。それで子どもたちは幸せなのか。

【萩生田政調会長に申し上げたい】

 萩生田政調会長をはじめとする黙食反対の人々は、休日の家庭やレストランで行われる昼食会のような学校給食を目指しているのかもしれません。しかし学校の日課は詰み切っているのです。
 対比すべきはそんなゆったりとした会食会ではなく、勤めや学校に行かなくてはならない一般家庭の普段の朝食、あるいは社食がないばかりに近隣の食堂やレストランに大急ぎで行き来しなければならない会社員の昼食です。そんな状況で「少しくらいおしゃべりして楽しく食べましょうね」と言ってくれる母親も経営者も、そんなに多くいるはずがありません。通勤電車も取引先も、楽しい食事のために待ってはくれないのです。

 萩生田政調会長殿。
 しかし私は会長の意思を尊重する心の準備があります。子どもたちが楽しくおしゃべりをしながらゆったりと食べる暖かな給食――。そのためにまず学級を25人以下にして相対的に教室を広くしてください。感染リスクを減らしましょう。

 そして子どもたちが時間的に余裕をもって食べられるよう、準備時間を除いて1時間は給食に当てられるようしてください。そうすればゆっくり食べたい子は食べ続け、当番の子もたっぷり遊んでから片付けの仕事をすればいのです。そのために1日最大5時間の授業で済むようにカリキュラムを変更してください。元文科大臣として、現在の大臣に知恵を授けましょう。総合的な学習の時間とか、小学校英語だとかプログラミング学習とか、それでも足りなければ算数とか数学とか国語とかを、各1時間ずつなくすだけでいいのです。

 それもだめなら――あとはもう仕方ありませんから、午後の授業時間に並行して後片付けと清掃ができるよう、業者を雇ってください。
 え?それもこれもできないって?
 じゃあ余計なことは言わず、黙っていてください。それが一番だと私は思います。