カイト・カフェ

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「あちこちに不義理をして、ホゾを噛む」~古い知り合いの退職挨拶状が届いて・・・

4月の届いた早期退職の挨拶状に返事が書けない。
退職の原因が分からないので言葉が出ないのだ。
定年退職まであと数年だというのに何があったのか、
きちんと連絡し合っていれば、こんな思いにならずに済んだのに。
という話。(写真:フォトAC)

【退職の挨拶状に返事が書けない】

 4月の末に退職の挨拶状をいただいた昔の同僚に、返事が出せずに困っています。すぐに返すつもりがなかなか進まず、暑中見舞いを書こうと思って果たせず残暑見舞いにも遅れて、今、目の前に宛名だけ書いたはがきが置きっぱなしです。
   なぜ書けないのか。それは冒頭に、
「この度、病気療養のために休職しておりましたが、早期退職しました」
とあったからです。
 体育の先生で見るからに健康そうでしたが、「医者からは脂肪肝と言われている」とも聞かされていました。だから身体的には問題は抱えやすい人だったのかもしれません。
 肥満ではなくアルコールもさほど嗜まず、ましてや体育の先生ですから運動不足も考えにくいですから、素人目に不思議といえば不思議でした。
 脂肪肝は放置すれば肝硬変や肝がんに至る場合もある病気ですが、一緒に仕事をしていたのは彼がまだ20代のころですから、以後十分に気をつけていたはずです。もしかしたら肝臓関係ではないかもしれないと思ったらかえって手紙が書けなくなったのです。

【突然、教職を離れる人たち】

 長く教員を続けてきたせいで、ときどき奇妙な形で早期退職をして行く先生を見ることがあります。全く普通の、いや普通以上の働きをしてきた教師が、突然失速して学校に来られなくなってしまうような例です。

 一人は私の勤務していた中学校に転任してきた40代後半の教師で、4月の職員会では盛んに学校批判をしたり、学校農園にトラクタがないのはおかしいと言い出して無料の農業機械を探し出してきたりと、有能さをギラギラさせたかと思ったら5月の大型連休とともにぱったりと来なくなって、そのまま2カ月ほどで退職してしまいました。あとで聞くと前任校でも休みがちだったということですが、それにしても過去20年間、どうやって教員生活を続けて来たのか不思議でした。

 もう一人は30代後半の、これもやり手の中学校教師です。新採用の時期からずっとやり手で、学校を変ってもすぐに生徒指導の第一線に立ち、当時はヤンキーみたいな中学生がいくらでもいた時代でしたが、それを次々となぎ倒し(言葉で)、折伏させ、学校を正常化させたという伝説的な人でした。それが突然出勤できなくなり、数年、復帰と休職を繰り返したうえで退職されたのです。
 私が知り合ったのは休職明けで戻っていた学校で、噂では同僚との確執が原因との話でしたが、本人に訊いたらある日突然「仕事に行きたくないな」と思ってそれきりだったということでした。どうにも体が動かない。まるでカフカの「変身」みたいな話です。

 三人目は、これは以前お話したと思いますが、定年退職と同時に講師として小学校現場に戻った元校長先生です。子どもと接することが大好きでウキウキと希望に満ちて担任業務にあたったのですが、わずか1~2か月で学級崩壊、本人はうつ状態で家に入ってしまいました。

【時機を逸して時期を迎える】

 私が挨拶状に返信できないでいる先生はいかなる理由で早期退職されたのか――。いま思い出した三人の先生方のような心に問題を抱えてのことでなければよいがと思いながら、だからと言って脂肪肝が悪化したとか肝がんになったとかいった方がいいということにもなりません。

 私よりも一回り以上若い、高身長の好青年でした(一緒に働いていた時は)。その日から40年近くたち、その間に元生徒の成人式と40歳の会の2回だけお会いしましたが年賀状のやり取り以外これはといった連絡はしないで来てしまいました。それだけに今さら電話というわけにもいきません。

 それやこれやでずっと気にしながら、考えてみればもう年賀状を気にする季節です。あちこちに不義理をしてある日突然ホゾを噛む、これからそんなことも多くなるかもしれません。