カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「仙人もコロナ・ウイルスに侵されるのか」~初めてわが身に感じた日

奥歯の痛みが死の予兆であることがある、
それを聞いていたのでむし歯でもない奥歯が痛み出して医者に行った。
ところが疑われたのは新型コロナ。
ありえないだろう、人とも会っていないのに――
という話。
(写真:フォトAC)

【奥歯の痛みが死の予兆】

 昔、聞いた話です。
 ある先生が出張先で急に奥歯が痛くなり、予約を兼ねて歯科医に電話をします。
「いま治療をしているのと反対側の奥歯が痛み出したのだが、診てもらえないか」
 すると歯科医は、
「反対側の奥歯は健康な歯です。通常それが痛むことは考えられません。もしかしたら心筋梗塞が始まっているのかもしれません。至急専門医に診てもらってください」
 ところが電話が会議直前だったため、教師はそのまま会場に向かい、結果、会場で発作を起こして亡くなってしまったというのです。
 実話です。
 調べると歯痛は「胸痛、胸の圧迫やしめつけ感」「胸焼け」に続いて、「腕・肩・あごの痛み」とともに心筋梗塞の予兆の三番目に挙げられていました。

【のどから奥歯、首筋に下りてくる痛み】

 一昨日の昼過ぎ、何となくのどの奥に違和感があって、「風邪」が頭に浮かびました。しかし風邪を引くようなことをした覚えがありません。午後3時ごろになると今度は右の奥歯付近がうずき始め、あまり健康な歯でもないのでむし歯を考えました。のどの痛みはそのままです。
 奥歯の痛みは6時過ぎになるとさらに強くなり、全身の倦怠感とともに耐えがたくなってきます。しかも範囲が広がって首筋まで下がり、あちこち触ってみるとどうやら右の鎖骨の上、それもかなり喉仏に近い辺りが強く痛みます。だんだん胸に近づいているわけです。

 40歳代の前半ですでに一度死んだ身です。だから死ぬのは怖くないのですが突然死は困る。私の予定ではガンとか肝臓病で適度に闘病し、周囲にも病院にも適度に迷惑をかけながら十分な準備をして冥土へ旅立つ、そうなっているのです。いま急死して家族に見られたくないものを残すのは本意ではありません。

 心臓病の可能性に思いついたのがかなり遅い時刻だったので、その晩は疲れに任せて早寝をし、起きてからはさまざまに仕事をゆっくりと済ませ(とは言っても5時間ほどかかりましたが)、10時過ぎに町の開業医に行きました。その時刻なら空いているような気がしたのです

【田舎は今も臨戦態勢】

 実際に行ってみると思った通り待合室には4~5人がいるだけでした。受付で症状を言って熱を測ってもらい、「しばらくお待ちください」と言われて椅子に座ると、ほどなく看護師が現れて、
「のどが痛いということですから、とりあえずいったん外に出ていただいて、車の中でお待ちください」
 コロナ感染を疑ってのことだなとすぐに分かりました。私がコロナにかかるはずがないのに。そこでまた靴を履いて屋外に出て、自家用車に乗り込もうとすると――そのとき初めて気づいたのですが、駐車場にあった車の多くがエンジンをかけっぱなしで、中に人がいるのです。中の一台には運転席の横に防護服に身を固めた医師が立ち、窓を開けさせて何か話をはじめます。空いているどころじゃない、ほとんど臨戦態勢なのです。

 しばらく待つうちに、私のところにも別の、私にとっては主治医のような医師がやってきます。そして喉に灯りを差し込んで、見るなり、
扁桃腺が腫れていますね。最近、コロナ感染の疑われる人と会ったことは?」
 そこで私は答えます。
「感染を疑われるどころか、そもそも過去2年半、人らしい人と会っていません。介護をしている母と妻くらいのものです」
 ウソではありません。マスクなしで15分以上話をした経験は、感染拡大の狭間で行われた数回の会合だけです。そうした私の事情を知っている医師は、
「そうですよね。それでは血液検査だけはしておきましょう」
 扁桃腺が腫れている以上なんらかの感染の疑いがあるわけです。

【検査 to 検査】

 病院の裏口から院内に入り、パーテーションに仕切られた小さなブースで採血。10分ほどで結果が出ると言うのでのんびり待っていると、予定より少し遅れて医師がきます。
「正常値です」
「え?」
 血液検査の結果が正常値ということは、何らかの細菌による炎症ではないということです。そうなると疑われるのはコロナウイルス
「抗原検査をしましょう」
ということになって再び駐車場へ。そこから病院の裏の検査場へ行ってドライブスルー方式の検査。鼻の奥に綿棒を突っ込まれ、3秒ほどグリグリします。

 私はけっこうな衝撃を受けていました。母の介護だの妻の職場のことだの、具体的な問題もありますが、人間関係の絶海の離島、コミュニティの山岳地帯で仙人みたいな暮らしをしている私が、どうやって感染できるのか。
 母が週2回通うデイ・サービスは異常な感染対策を取っていますし、学校勤めの妻は怪しいものの校内で発症は最近ありません。濃厚接触体験としたら、コンビニで女子高生と変に目が合ってしまい、相手を怯えさせたくらいです。
 その私が感染しているとしたら、それはもう太陽のせいとしか考えられないのです。

【で、結局なんだったのか?】

 待つこと10分、陰性。
 結局、コロナ以外のウイルス感染くらいしか考えられないということで、抗生剤と痛み止めをもらって帰りました(アレ? 抗生剤ってウイルスに効くのか?)。
 
 今朝は薬のおかげで痛みはやわらぎ、のどの乾燥も昨日の朝ほどではありません。しかし細菌でもなくコロナでもないとしたら、この痛みと腫れは何なのか――。
 考えられるのは血液検査か抗原検査の誤陰性。そして医師との話にはカケラも出てこなかった心筋梗塞、いや実際に腫れがあるので心筋梗塞はないか――と謎を残したまま、しばらく自粛生活を送ることにしました。これ以上の自粛をどうすればいいのか、あまりよく分からないのですが。