「エリザベス二世、逝去される」~そして女王陛下の007

エリザベス女王が亡くなった。
政治に深く関与することもなく、歴史を大きく転換させた人でもないが、
やはり必要な人だった。これで世界はどう変わっていくのか。
そして007のこと。
という話。(写真:フォトAC)

【女王、逝去される】

 イギリス女王エリザベス二世が先週木曜日に亡くなりました。96歳、在位は70年に及びました。
 イギリスの王室を彩る女性には、「1000日のアン」ことアン・ブーリン(1501?-1536)、その娘のエリザベス一世(1533-1603)、「九日間の女王」ジェーン・グレイ(1537-1554)、「ブラッディ・メアリー」ことメアリー一世(1516-1558)、ビクトリア女王(1819-1901)、ダイアナ妃(1961-1997)等々、そうそうたる人々がいますが、エリザベス二世も間違いなく歴史に残る王室女性のひとりとなるでしょう。
 政治に関わって大きく時代を動かした人ではありませんが、イギリス連邦の象徴として最も敬愛された王・女王のひとりとなりました。
 
 私はイギリス史にもイギリス王室にあまり詳しくないのですが、とくに晩年のエリザベス二世はとても愛らしいお婆ちゃんで、見ているだけでたのしくなるような人だという印象を持っています。
 2012年のロンドン・オリンピック開会式では007ジェームス・ボンド役のダニエル・クレイグエスコートされ、パラシュートでスタジアムに降下するという演出で世界を沸かせました。私の最も好きな映像のひとつで、今もしばしば観ています。
 

 在位中の70年間、イギリスは決して平たんな道を歩んできたわけではありません。しかしそれでも「いざとなれば女王がいる」「女王の下でいつでもひとつになれる」という自信と安心感が、人々を自由に争わせていた感もあります。イギリス連邦全体もそうだったように思います。
 そのカナメを失った今、イギリスとイギリス連邦はこのままでいられるのでしょうか。なんだかとても心配になります。

【王室のカナメとして】

 心配といえばイギリス王室自体も、この人がひとりで支えていた感があります。
 女王の死にともなって新皇太子となったウイリアム・キャサリン夫妻は、気品にあふれ風格もあって、将来の国王としてふさわしい家庭を築いています。しかしチャールズ新国王も含め、あとのメンバーはことごとく感心しません。
 女王としてのエリザベス二世は母親としてはうまく行かず、苦労は絶えなかったのかもしれません。父親の兄、つまり大叔父が「王冠をかけた恋」のエドワード八世ですから、血統に熱すぎるものがあるのかもしれません。
 ご冥福をお祈りします。

【女王陛下の007】

 さて、先ほどダニエル・クレイグの話をしましたが、私は007の大ファンでショーン・コネリーの6作品とダニエル・クレイグの5作品は繰り返し何度も見ています。シリーズは現在25作品ですから二人以外がジェームス・ボンドを演じた作品が14もあるのですが、ほとんど見ていませんし見たとしてもあまり覚えていません。その覚えていない作品のひとつが邦題「女王陛下の007」です。
 原題は“On Her Majesty's Secret Service”、直訳すると「女王陛下のシークレット・サービス」で、ここで問題なのが「女王陛下」にあたる“Her Majesty”です。これも直訳すると「彼女の陛下・権威・威厳」。これが女王でなくて国王あるいは皇帝だと“His Majesty”という言い方になります。いずれも本人が目の前にいないときの呼び名で、直接女王に呼びかけるときは“Your Majesty”という、さらに分からない言い方になります。
 
 これは高貴な方のことを直接口にすることを避ける婉曲表現で、遠回しに言うことで尊敬の念を表すのです。とくに国王や女王に直接話しかけるような場面では、あえて本人ではなく、侍従や大臣に向けて「あなたのMajesty《威厳・尊厳》(に当たる方にお伝えください)」といった形式をとったのが始まりと考えられます。
 
 それがどういう経過をたどって日本に訪れたのか分かりませんが、わが国でも同じような表現がいくつかあります。
「陛下」は「陛(きざはし=宮殿の階段)の下におられる方に申し上げます」、
「殿下」は「殿(大きく立派な建物)の下におられる方に申し上げます」
「閣下」は「閣(二階づくりの立派な建物)の下におられる方に申し上げます」
が、もとのかたちです。もちろん現在は直接、相手に向かって使っていい言葉です。

 ずいぶん前に得た知識でここでも何回か扱っていると思いますが、エリザベス女王逝去で再び思い出しました。
 ついでにイギリス国歌はこれまで“God Save the Queen”でしたが、先週金曜日以来“God Save the King”に変わっています。国家元首で国歌が変わるというのもおもしろいですよね。