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「国がダメなら地方がある」~教員の働き方改革が進まないわけ⑧ 

 文科省財務省も動かしがたい、というか動かない。
 しかし地方自治体に、案外な余裕のある場合がある。
 どうせ予算は奪い合いだ。
 そこに切り込んで、学校が直接、人間を獲得して来ればいい。

という話。

(写真:フォトAC)


【国はダメなら地方がある】

 財務省は絶対に教員を増やそうとしません。文科省も追加教育を減らす気がまったくありませんから、総合的な学習の時間もGIGAスクール構想も、小学校英語もプログラミング学習も絶対になくなりません。

 やると言ったのは、できもしない部活の地域移行と、減らすはしから別が出てくる調査・指示・連絡文書、そして学校行事です。学校行事の削減・縮小には限度があります。それにそもそも、運動会だの文化祭だのは学校が独自に育ててきた文化であり個性です。中途半端な小学校英語やプログラミング学習を優先させ、学校行事を減らすのは愚の骨頂です。けれど何を言ってもムダ。「逆さにして振っても鼻血一滴も出てこない文科省」ですから、諦めましょう。
 国はもうどうにもなりません。ただし地方自治体にはわずかな可能性があります。昨日お話した「自治体独自の教員」です。


【市町村は動かしやすい】

 私はかつて、ふたつの中堅地方都市にはさまれた“村”の中学校に勤めたことがあります。“市”に挟まれながら吸収合併されなかったのは、村内に有力企業が三つもあって、税収に困らなかったからです。
 江戸時代から続く“村”で誇りも高く、あらゆることで他の自治体に負けたくない。そうなると学校への投資もハンパではなく、まだ各校に2~3台しかコンピュータのない時代に、コンピュータルームをつくって45台も設置してしまう、その実力には驚かされました。村は、そして村議会議員は、これを周囲に誇るのです。
 初めて赴任した4月、学校の備品要求調査があって、こういう時は多少吹っ掛けて書いた方がいいと知っていた私は、ダメ元で、なくてもいい機器まで10項目近く書いたら全部通ってしまったのには呆れました。

 地方自治体、特に市町村には意外と豊かなところがあるのです。豊かでなくても、教育は常に有権者の最大の関心事で突き上げも多いですから、与しやすいのです。首長も議員も動かしやすい。だから保護者もすぐに議員のところに話を持ち込みますし、だったら学校も議員を使えばいいのです。


【一般教職員でも関与できる】

 予算編成というものは税金でつくったパイを切り分ける争奪戦です。学校が黙って指をくわえていることはありません。教育予算を使って1人でも教員を増やすことができれば、それが既得権になります。最初の一回だけが大変で、あとは前年度踏襲で続けられることが少なくありません。

 私の勤めていた“村”の近辺では「議会議員親睦ソフトボール大会」というのがあって、こんなことでも負けたくない議員たちの練習相手をさせられたことがあります。休日の練習で面倒くさいことこの上ないのですが、議員と知り合うにはいい機会で、練習の後の飲み会では学校の窮状をあれこれブー垂れることができました。それが何かの伏線になるのです。
 畑のおっちゃんに声をかけられて見れば議員、タクシーに乗ったら運転手が村議会議長と、なかなか気の許せない場所でしたが、一介の若手教員が直接地方政治に関与できるという点では面白い経験でした。

 タイを釣るにはエビが必要です。結果的に自分が楽をするために、多少、撒いておくべきものがあります。


【校長先生、出番です】 

 もっとも議員との折衝は基本的に校長の仕事です。
 大きな市だと教委を通じて、あるいは校長会を通してということになりがちですが、パイの切り分けは校長同士でも起こっていますから、ウカウカすると校長会の役員ばかりが得をしているということにもなりかねません。
「校長の仕事は、挨拶をすることと責任を取ることくらいのものだ」などとぼやいていないで、裏口から人を取ってくるような努力をしていただきたいものです。
 コロナが終わったらぜひ飲み会にもたくさん行っていただき、顔をつないでほしいものです。そして学校の現状をたくさん話して、いざというとき強く要求していただきたい。

 どんな方法であれ各校一人でも雇っておけば、雇われた講師にとっては“給料をもらって行う学級担任なしの一年研修”、学校にとっては“誰か教員が倒れた時の安全弁”、地方自治体にとっては“周辺の自治体や有権者への絶好のアピール”と、ウィン・ウィン・ウィンの話です。
 小さな提案ですが、教員をふやすための突破口は、ここくらいにしかありません。