「座る筋肉、お尻をグイッ!」~落ち着いた雰囲気で授業を行う工夫③ 

 落ち着きのない子の落ち着かない理由を、心の問題として考えると厄介だ。
 しかしまったく違った方向から考えると、答えはむしろ近いのかもしれない。
 つまりこうだ。
 さあ姿勢を正すぞ! 座る筋肉、お尻をグイッ!

という話。

f:id:kite-cafe:20220418065223j:plain(写真:フォトAC)

 

【言葉だけではうまくいかない低学年】

 先週は「子どもたちにきちんと授業を受けさせたいと思ったらいい話をしなさい。ただしすべての授業時間をためになるいい話で埋めることはできないから、朝の清新な時間に必ずいい話をして、“この人の話を聴けばいいことがある”という予断をつくっておきましょう」という話をしました。しかしそれだけではまったく歯の立たない子どもたちがいます。小学校1・2年生の一部です。

 彼らは年じゅう落ち着きがなく、いつでも体をくねくね動かしています。中にはすぐにもうしろを向けるよう半身に構えている子もいます。だらしなく腰を前に滑らせて、半分上を向いて寝ているような格好になっている子もいます。
 思いついたことはすべて口にして、友だちが相手にしないと袖を引っ張って気を引こうとする子もいます。とにかく声を発していないと気が済まない様子で「ダダダダダダ」と奇声を発する子もいます。そんな子どもが数名いるとクラスは大騒ぎで、担任も思わず大声になったりします。

「静かになるまで、先生は話をしません、授業を進めません」と宣言して大人しくなるまで待つと、静かになることはなるのですが授業を再開して1分も経たないうちにまたざわつき始める。酷い時などは教師が黙ると次第に静かになり、教師が話を始めるとまた騒ぎ始める――、これでは教師の発言がおしゃべり開始の合図になっているようなものです。
 なぜあの子たちはああなのか。

 私は小学校1年生の担任は1度しか経験なく、2年生についてはついに担任しなかったので十分に検討することもなかったのですが、いま考えているのは、
「そもそも足りなかったのは45分間座っているための筋肉ではなかったか」
ということです。というのは二つのことを思い出したからです。

 

【思い出した二つのこと。美しい少年とだらしない私】

 ひとつは小学校の教員になるずっと前、まだ中学校で2度目の学級担任になったときの話です。
 入学式が終わって担任発表もあり、新しいクラスを教室まで引率して着席させたとき、私は際立って美しい二人の男子に目を奪われました。美しいと言ってもジャニーズ系の美形ではなく、顔はむしろ悪役商会に近い強面ですが、とにかく座り姿が美しい――すくっと背筋を伸ばして固さはなく、神々しいと言ってもいいような見事さです。私はおそらくその場で(違っていても数日以内に)その子たちを誉め、どうしたらそんなに姿勢よくいられるのか訊ねたと思います。すると彼らの答えは簡明でした。
「たぶん剣道をやっているからです」

 そのこともあって十数年後、私は中学生になった息子のアキュラに剣道部を薦め、アキュラも気に入って3年間熱心に努めましたが、やはり姿勢の良い子に育ちました。我が子ながら、特に葬儀の席などでは、飛び抜けて美しい姿でいくらでも長く座っているのです。
 授業中のアキュラはほとんど知りませんが、二人の教え子の学習姿勢は印象深く覚えています。きちんと座っていられるから授業中も教師や黒板に正対できる、正対できるから自然と話もよく耳に入ってくる、よく耳に入ってくるから授業も分かり、だからさらにしっかり聞こうとする、そんな良循環が働いて二人ともよく勉強したのです。

 思い出したもうひとつのこと、それは私自身の話です。
 生れながら病弱なこともあって外遊びは少なく、本を読んだり絵を描いたりしてばかりの私は、良くも悪しくもいわゆる「良い子」で、小学校にあがっても先生や友だちに迷惑をかけるような子どもではありませんでした(そのはずです)。ところが通知票の所見にはたびたび「落ち着きに欠ける」と書かれ、家庭訪問などでも指導を受けることが少なくなかったのです。
 あまり繰り返し言われるので自分でも“落ち着きのない子”だと思っていたのですが、いま思うのは単に「座っていることのできい子」だったのではないか、ということです。実はおとなになっても座っていることが苦手で、わずか1時間半の映画を見続けることもできず、腰を前へ滑らせて寝そべってみたり、立て直して前かがみになったり、足を組んだりその組んだ足を組み替えたりと、ずっと動きっぱなしなのです。おかげでさっぱり画面に集中できません。
 それにそこまで動く観客はほとんどいないので、いつも申し訳ない気持ちでいなくてはならないのです。

 

【座る筋肉、お尻をグイッ!】

「座る筋肉」という言葉でネット検索するとさまざまなサイトが出てきます。その中のひとつを見ると、きちんと座っているためには驚くほど多くの筋肉が関わっていることが分かります。

ar-ex.jp

 さらに検索結果を見て行くと、私にぴったりの記事にあたります。president.jp 一読いただくのが良いのですが、いつか消えてしまうかもしれませんので、大切なところだけ書き写させていただきます(地の文と会話文が混ざっているため、常体・敬体が混在します)。

  •  姿勢が悪いために、授業に集中できなかったり、疲れやすい子が増えている。
  • 両肩が落ちて前かがみの姿勢、いわゆる“猫背”では、肺が広がらないため、深い呼吸ができません。結果的に脳への酸素供給量が減って、ボウッとしやすくなります。また、猫背では首が前に出て、体重の1割もの重さがある頭や上半身を筋肉だけで支えるので、肩こりや腰痛になりやすいのです。
  • さらに背骨は重要な神経の通り道なので、猫背だと運動能力が落ちたり、自律神経が乱れるなどの弊害が生じるそうです。
  • 姿勢を良くすると、活動するときに働く交感神経が優位になることがわかっています。やる気が高まり、臨戦態勢に入った状態です。私はこれを“ON(オン)の姿勢”と呼んでいます。このような状態で授業を聞くと、集中できるので、学習効果が高まります。
  • 腰かける際に、前かがみになってお尻が背もたれにつくまでグイッと引く。この動作によって、骨盤を立てることができる。
  • ポイントは、骨盤を立てること。そのための声のかけ方は、次のようになります。「前かがみでお尻を一番後ろまでグイッと引いて座ろうね」
  • 正しく座ってから、おなかが机に当たるまで椅子を前に引くと、姿勢が固定されて、さらに楽になるそうです。
  • 歯磨き同様、いい姿勢も習慣化することが大切です。毎日3回、正しい姿勢を意識させることから始めてください。

 学校は一日に5~6時間の授業があります。その始まりの度に行えばそれだけでも毎日6回、正しい姿勢を意識させられます。
 私はもう児童生徒の前に立つことはありませんが、現職だったらきっと試してみたことでしょう。小学校の低学年なら躾として、3・4年生以上中学生までだったら事情を説明してから、忘れず、細かく指示を出します。そして掛け声!

「さあ姿勢を正すぞ! ご唱和願います、セーノォ、座る筋肉、お尻をグイッ!」