カイト・カフェ

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「突然死ぬと、救急車とポンプ車が来る」~十分な用意もなく自宅で死ぬことの厄介と留意 

 正月早々 近所で一人暮らしの女性が亡くなった
 救急車も消防車も、警察も駆け付けるというものものしさだったが
 近所では驚くほど単純なことが問題となった
 誰も家族の居場所を知らなかったのだ

という話。

f:id:kite-cafe:20220112075207j:plain(写真:フォトAC)

【近所で、ひとり暮らしの女性が亡くなった】

 正月三日午前中、所要があって家を出て、小一時間ほどして戻ったら自宅の50mほど先に消防車が停まっていました。近所の人たち数人が出ていて、顔を寄せて何ごとか話し合っています。消防車は一台だけですから、火事ということはないでしょう。
 そうした場所にあとからのこのこと出かけて行くのは、品がないようで嫌なのですが、ふと考えたら今年度、私は隣組の組長で、何かあったら動かなければならない立場です。そこでいったん玄関に向かった踵を反して、人の輪に入ることにしました。

 近くに行くと角を曲がったところに救急車もいて、それとは別に背中に「POLICE」と書かれたベストを警察官も何人もいます(パトカーは見当たらなかった)。あまりのものものしさに恐る恐る聞くと、角の家のひとり暮らしの奥さんが亡くなっていたのだと言います。74歳ですから、まだまだ若いといっていい年齢です。

 元日よりたびたび電話を入れていた友だちが、あまりにも繋がらないのを不審に思って訪ねてきたところ、テーブルに突っ伏して亡くなっていたのだそうです。日中に亡くなったらしく、カーテンも開いていればベランダ側の窓の鍵もかかっておらず、すんなりと中に入れたみたいです。

【十分な用意もなく自宅で死ぬことの厄介さ】

 人は若いころは、案外と死に直面しないものです。
 祖父母の死に立ち会うと言っても孫たちが慌てて駆けつけることは稀で、たいていは親たちが周辺を整えてからの対面となり、葬儀の準備やこまごまとした相談の輪からは外されています。だから知らないことも多いのですが、大人になってたくさんの葬儀に招かれ、あるいは葬儀の運営責任者になったり喪主になったりするうちに、さまざまなことを知るようになります。そのひとつが、十分な用意もなく自宅で死ぬことの厄介さです。

 自宅にいても、長いこと病んでいて、たびたび主治医の往診を受けていたというような場合は簡単です。その主治医に来ていただき、死亡診断書を書いてもらえばいいだけです。ところがこれといった病気もなく、自宅で突然亡くなったというような場合には、簡単には行きません。火葬してしまったあとで犯罪の証拠がでてきたりしたら、取り返しがつかないからです。
 法律上は検察官が検死をすることになっているそうですが、実際には対応しきれず。警察官が代行する場合が多いようです。テレビドラマの「ハコヅメ」にもそうした場面が出てきました。

【突然死ぬと、救急車とポンプ車が来る】

 私が初めてそうした事例に遭ったのは、実家のお向かいでご主人が亡くなったときです。いわゆるヒートショック(気温の変化によって血圧が上下し、心臓や血管の疾患が起こること)による死亡だったのですが、やはり救急車とともに消防車も駆け付け、あとから警察が入って丸一日検死などの活動を行い、そのために葬儀の手続きがずいぶん遅れました。
 消防車(ポンプ車)までやってくるのは「PA連携」といって、出動先から別の場所へ救急搬送に向かわなければならなくなった場合、消防車の方が残って隊員が対応を続けるためだそうです。「P」は消防ポンプ車(Pumper)、「A」は救急車(Ambulance)のことを言います。消防署員は救急隊員でなくても十分な訓練を受けているので、基本的な処置については問題ないないと考えられています。
 
 またそれとは違って、別の意味で驚いたのは伯母が亡くなったときのことです。
 伯母は朝、新聞を取りに行った玄関で倒れ、なんとか寝室までもどってきたもののそこで意識を失いました。たまたまそれがデイサービスの日で、伯母が出て来ないことを不審に思った担当者が家族に知らせ、それで家族が駆けつけました。
 幸い息があって病院に運ばれると午前中には回復し、それでも一晩は様子をみようと留め置かれた病室で、深夜、亡くなったのです。この場合にも警察が入って現場検証などに時間がかかりました。いったん回復しても、それでも調べるというのは、丁寧といえば丁寧なですが、ちょっと驚きました。

【何も触れてはならぬ】

 もっとも検死が入ること自体の厄介さは、基本的に家族だけの問題です。ところが今回ご近所で起こったことには、別の厄介さがありました。発見した友人も隣組の人々も、誰も家族の連絡先を知らなかったのです。しかも調べることもできない。
 検死作業が始まると、室内の何ひとつ触ることができないのです。住所録だとか携帯だとか、どこかにヒントはあるはずなのに一切調べることができない。それでは何も進みません。
 幸い今回は、以前、近所に住んでいた人で、娘さんの元夫の名前と勤め先を知るという人が見つかり、その伝手を辿って家族に知らせることができました。しかしそれでも最終的に連絡できるまで2時間近くもかかってしまいました。

 同じような独り暮らしは日本中に何百万人もいます。私も日中、母を独り暮らしさせていますが、もし屋外で倒れたり、あるいは火事を出して消防が大量に駆け付けたとしても、誰も私に知らせることはできません。連絡先を知っている人は近所にひとりもいないからです。
 せめてお向かいさんぐらいには、電話番号を渡してお願いしておいた方がいいと思わされた出来事でした。