大阪のクリニック放火殺人事件の被害者の中に、
昨年教員採用試験に合格し、今年春に辞職した元教員がいた。
退職して9カ月にもなるというのに、まだ病院を離れられなかったのだ。
神様はなぜこの人に、あんな仕打ちを許したのか――
という話。(写真:フォトAC)
【被害者の中にいた元教員】
大阪のクリニック放火事件のニュースを見ていたら、ひとりの被害者の友人という男性がインタビューを受けていて、その人の口から亡くなった方の人生の一端が語られていました。
昨年、教員採用試験に合格して4月から働き始めたもののこの春に退職、現在はクリニックに通いながら再起を計っていたとのこと。事件の被害者は30名近くもいますからきっとそういう人もいると思っていたのですが、やはりそうでした。
心の病で休職する教員が毎年5000人もいる世界です。休職寸前の教師も退職してしまった人も含めるとたいへんな数になりますから、27名の被害者の中にはもうひとりかふたり、現職も含めているのかもしれません。
かつてはこうしたニュースで被害者や加害者のことが報道されてもせいぜいそこまで、あとは週刊誌が後追いするのを待つしかなかったのですが、現代は違います。素人の私でもネットで何かないか、調べることができます。
そこで亡くなったこの方について調べると、すぐに出てきました。フェイスブックです。
【熱意があるゆえに正規採用になれない講師たち】
年齢も居住地も、そして昨年4月から教員になったという点も一致します。よく覚えていないのですがニュースで見た写真と顔も一致しますから、まず間違いないでしょう。
現在34歳で昨年4月に新規採用というのはピンとこなかったのですが、大学院修了でスタートが遅かったこと、大阪府内で中学校の講師を長く続けた上での他県での合格、ということで遅い採用となったようです。
中学の講師の場合、教員採用試験と部活の本大会がピッタリ重なってしまうため、仕事に熱心であればあるほど合格が遠のくという恨みがあります。クラスにも生徒指導にも部活動にも熱心で、自分の受験勉強だけはやっていないという講師はいくらでもいます。この人もそうだったのでしょう。
剣道とスキューバダイビングをこよなく愛す好青年で、体育会系のさわやかな感じが全身からあふれ出ている人です。
その彼が、わずか1年の正規教員で退職を余儀なくされ、9カ月たった今も心療内科に通わざるを得なくなっていたのです。講師経験がたっぷりあったところで、壊されてしまうときは壊される――それが現在の学校の恐ろしさです。
【神様はなぜ、あんな青年の命を奪ったのか】
この人のフェイスブックは昨年3月、正規の教員となって赴任する直前の投稿を最後に、以後まったく更新されていません。すくなくとも一般公開のページとしては何もないので、今日までの1年9カ月をどう過ごしてこられたのかは、まったくわかりません。たぶん、そうとうに苦しい日々を送って来られたのでしょう。
34歳と言えばかつての同級生の半分以上は家族をもち父親となり、残りの半分も、結婚するかどうかは別として、組織の中堅となって将来の展望も開けているはずです。それなのに自分は病気の出口さえ見えてこない――。そんな中での、突然の人生の中絶。
「エロイ エロイ レマ サバクタニ(神よ 神よ なぜ我を見捨てたもうや)」はイエス・キリストの最期の言葉として知られるもので、キリスト教徒はこれに特別な解釈をします。しかし私は非キリスト教徒ですから字義の通りにしか受け取りません。
神様はなぜ、こんな青年の命を奪ったのか。
そして熱意ある誠実な青年が、あっという間に心を病み、何の咎もないのに殺されていく不条理を恨むのです。
学校は彼に何をしたのでしょう?