「一芸に秀でる者は多芸にも通じるのだろうか」~才能と努力について①  

 「一芸に秀でる者は多芸に通ず」と言われて、
 何かで他人を圧倒するような人になろうと努力を重ねてきた
 しかしこの言葉には別の意味もあるのではないか。
 それはまったく身も蓋もないことなのだが。

という話。

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(写真:フォトAC)
 
 

【一芸に秀でる者は・・・】

 成績が振るわない子の点数を上げるためには、全般的な強化を図るのではなく、一番伸びそうな教科をひとつだけ引き上げるようにする、という方法があります。なぜか分からないのですが、そうすると他の教科も自然と伸びてくる場合があるのです。
「一芸に秀でる者は多芸に通ず」
というのはそういう意味だと思っていました。
 何でもいい、自分の得意なものを一心に努めればそこで得た技能は他の面でも役立つということです。
 
 バイオリンの練習をすればビオラやチェロの演奏でも習得能力は高まる(正の転移)という意味ではもちろん間違っていないのですが、しかし最近、ちょっと違うのではないかと思い始めているのです。
 
 

【品のない女性たちの雄叫び】

 先週木曜日の毎日放送プレバト!!」は3時間スペシャルでした。
 この番組は俳句や美術といった分野で芸能人の力を試して格付けしようというもので、かつては生け花などもあったのですが、最近は俳句を中心として水彩画や消しゴムハンコ、ちぎり絵といった分野が取り上げられるようになっています。
 先週のスペシャルは「水彩画」と「消しゴムハンコによるパラパラ動画」、そして「俳句」という構成でした。

 私は絵画が好き、妻は俳句が好きということで見ることの多い番組ですが、先週の水彩画はプレバト史上空前の激戦で、参加者7名中5名が100点満点。それを無理やりに順位付けをすることになりました。結果を発表順で言うと(というのは最下位から順に開いていくわけではないので)、7位が中川大輔、6位野生爆弾くっきー、3位田中道子、4位アン・ミカ、2位辻本舞、5位光宗薫、1位ナイツ土屋伸行でした。

 今回に限って蚊帳の外になってしまった中川大輔とくっきー(7位・6位)の発表のあと、5人が100点満点と紹介されて、緊張感の中で3位に田中道子の名前が出されると、この32歳のモデル兼女優は下を向いて吐き捨てるように大声で「クソ!」と叫びます。セクハラ覚悟で言えば、とてもではありませんが女性とは思えない激しい物言いで、3位の席に移動してからも目つきも態度も最悪でした。

 4位のアン・ミカも2連覇を狙いながら2位に甘んじた辻本舞も、大人ですから相応の態度でしたが、最後の、1位か5位かという場面で5位に終わった光宗薫は、「5位かァ。5位は初めて」と言って絶句したきり、あとは数歩進んでは立ち止まって両手を腰に当て「5位か」と言ってみたり、席を移ってからも「5位か」「5位か」と、こちらも田中道子に劣らぬ険しい表情で床を睨みつけています。本来が感情を表に出しやすい田中と違って、光宗は冷淡と言っていいほどの冷静さがウリの元AKBです。だからそのお行儀の悪さは一段と引き立っていました。

 もちろんそこには「バラエティ番組だから抑えなくてもいい」とか「感情むき出しの方が面白い」とかいったタレントらしい計算もあったと思いますが、ないものを表に出すことはできません。優勝を本気で狙っていたのに「3位とは!」「5位とは!」といった怒りやくやしさは、やはり本物だと思いました。
 
 

【彼女たちのしてきたこと】

 それはそうでしょう。彼女たちはスケッチブックの画用紙一枚という小さな画面に、20時間もの時間をかけてきたのです。ボートレースの高速艇が巻き上げる水しぶきや、競馬場の馬が跳ね上げる砂の一粒一粒を、穂先の細い絵筆で丁寧に描き続けるという、気の遠くなるような作業を何時間も続けてきたのです。それも単純作業ではなく、表現として行っているのです。包丁職人の鍛冶場を描いたアン・ミカは、飛び散るオレンジ色の炎のひとつひとつに紫を重ねるという辛抱強い作業のため「ひとつ余計に齢を取ってしまった」というほどです。
 そうした超人的な仕事の果てが優勝ではないと知って、怒り狂う気持ちも分からないではありません(アン・ミカは抑えました)。
 しかし――。

 「分からないでもありません」と書きながら、しかし私自身にそういう体験があるかというと、どうもないようなのです。水彩画はやり直しの効かない絵画です。油彩みたいに何時間も何時間も、気に入った表現ができるまで塗りたくっていればいいというわけにはいかず、大きく間違えたら取り返しがつきません。それだけに神経質な描写が延々と続けられるわけですが、それを20時間も続ける集中力と持続力と体力が、私にはないように思うのです。
 しかし彼女たちにはある。
 そう考えたとき、「一芸に秀でる者は、多芸に通ず」は別な色彩を帯びて見え始めます。それは「ある一面で秀でることのできるような人は、何をやっても優秀だ」という身も蓋もない話です。

(この稿、続く)