競泳の萩野公介が引退する。
世界のスーパーアスリートになれる逸材だと思っていただけに残念だ。
荻野の前に荻野はなく、萩野のあとに荻野は生まれない。
同じ世代には似たようなスーパースターが目白押しだが、
これからは一人ひとり、消えていくだけで後が続かない
という話。(写真:フォトAC)
【萩野公介、引退する。そして同い年の人々】
2020東京オリンピックの興奮の冷めやらぬ中、そして日本国民の目がパラリンピックとコロナ感染に奪われている中で、競泳の萩野公介がひっそりと引退しました。リオデジャネイロ以後の失速さえなければ、80年代のミヒャエル・グロス、マット・ビヨンディ、90年代のイアン・ソープ、2000年代のマイケル・フェルプスと並ぶ水の怪物となると信じ込んでいましたので、とても残念です。
その萩野公介に関するニュースのあれこれに目を通していたら、ハフポストに「萩野公介選手が引退へ。大谷、羽生選手…1994年度生まれの“最強”アスリートはこんなにいる」という記事に目が留まりました。ハフポストが名前を挙げていたのは萩野以外に次の面々です。
- 米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平(94年7月5日生まれ)
- フィギュアスケートの羽生結弦(94年12月7日生まれ)
- レスリングの川井梨紗子(94年11月21日生まれ)
- プロ野球・広島の鈴木誠也(94年8月18日生まれ)
- 英プレミアリーグ・リバプールの南野拓実(95年1月16日生まれ)
- スピードスケートの高木美帆(94年5月22日生まれ)
- バドミントンの桃田賢斗(94年9月1日生まれ)
- バドミントンの奥原希望(95年3月13日生まれ)
しかし私はもっと大勢の名前を上げることができます。
水泳ではもちろん萩野と並ぶ瀬戸大也、野球では藤波晋太郎。サッカーで中島翔哉、パラリピアンでは車いすテニスの上地結衣。柔道のベイカー茉秋、プロバスケットボールの渡辺雄太。
スポーツ以外では芸能界に川島海荷、宮沢氷魚、伊藤沙莉、福田麻由子、山崎賢人、二階堂ふみ、清野菜名、広瀬アリス、栗原類。これまた錚々たる陣容です。もちろんここに上げたのは私が名前を知る人だけで、他にも大勢います。
【“ゆとり世代”の勝利】
なぜこんなに簡単に言えるかというと、3年前の11月14日の本ブログで、1994年生まれとは別のくくりでこの人たちを取り上げているからです。そのくくりというのは、「ゆとり世代」です。
サブタイトルに「藤井・梨花」と入れたように、枠を「ゆとり」に広げると藤井聡太君も紀平梨花さんも入ってきます。
「ゆとり世代」というのは大雑把に、高校3年間を「ゆとり教育」ですごした1987年度生まれから、小学校に入学したときはまだ「ゆとり教育」をやっていた2003年度生まれまでをいうのが一般的なようです。
年齢で言うと現在34歳から18歳までの人たち。田中将大・前田健太から始まって香川真司・内村航平・松山英樹・浅田真央、池江璃花子、錦織圭、伊藤美誠、AKBグループの全員、きゃりーぱみゅぱみゅ、Perfumeと、単に名が売れただけでなく、日本のスポーツ・芸能界で時代を画すような人が目白押しです。学術・芸術面では不十分ですが、評価が熟成するにはまだまだ時間がかかるということなのでしょう。
15年ほど前に私たちが「だから“ゆとり”はダメなんだ」とか「“ゆとり”じゃねえ」とか、あるいは「円周率が『3』の人たちネ」とバカにしてきた人たちに、今、支えられているのです。
【なぜ“ゆとり”世代は最強なのか】
なぜ「ゆとり世代」はこれほど優れているのか――。これについては「『総合的な学習の時間』で培われた“生きる力”が有効に働いているのではないか」とか「ゆとり教育が目指した個性重視が実を結んだ」とかさまざまな意見がありますが、私は単純に学校五日制が完全実施となり、親の週休二日制も進んで土日を計画的に使えるようになったからだと思っています。修行というのは行き当たりばったりではできないのです。
しかしそれも2008年までの話。一部で土曜授業が復活して土日の使い方が変則的になり、保護者の関心が小学校英語やプログラミングに向かう今日、もう第二の萩野公平も大谷翔平も、そして藤井聡太も出て来ないのかもしれません。
社会は多様性から統一性へ向かっています。