カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「ある自営業者の誇り」~国や都には感謝していると言える人の美しさ。

 店を閉じるのだから給付金や協力金はもらって当たり前と思う人、
 これきしの支援ではやってられないと、店を開け、酒を提供して深夜まで営業する人。
 しかし大半は粛々と協力して耐えている。
 中には国や都に、感謝の気持ちを伝えようとする美しい人もいるのだ。

という話。

f:id:kite-cafe:20210602065913j:plain(写真:フォトAC)

 

【生き方の美しい人】

 毎度のテレビネタで恐縮なのですが、昨日、あるバラエティ番組を見ていたら、逆クレームのやたら多い飲食店主という触れ込みの人が出ていました。逆クレームというのは店主から見た客に対するクレームで、実際には口にしないのですが、あれこれ言い分が面白いのでたびたび出ている人です。

 その人に、スタッフが、
「逆クレームというか、最近、こんなのむかついたのとかあります?」
と訊ねると、
「客が来ねえからねえんだよね。クレームを言うほど客が来ない。
 でも、店がつぶれないってのは、ホントに、お国と東京都には感謝しているよ。
 千代田区のひとに訊かれて、いや自分はこういうふうで感謝してますって言ったら、逆に都の職員から、飲食店の方からそのように言われたのは初めてなので、ありがとうと言われたよ。
 早く、気兼ねなく飲みに出られる世の中に、戻ってほしいですよね」

と明るく答えていました。
 飲食店の店主が「感謝しています」というのは、私も初めて聞きました。

 このコロナ禍、居酒屋などでマイクを向けると、8割くらいが「もう限界だ(だがしかたない)」と答え、2割くらいの人が「とてもじゃないがやってられない。時短や酒の提供中止に応じない方向も考えていく(応じないことにした)」という話になり、「感謝している」は聞いたことがなかったのです。

 

 

【私もそうする】

 コロナ禍における国や東京都の支援制度について、私はほとんどわかっていないので状況が判断できないのですが、情報番組などを見ていると、もう死ぬか廃業するしかないないという人がいる一方で、何とか持ちこたえているという人もいます。去年の夏あたりは、「普通に営業しているよりも給付金の方が多くて申し訳ない」という人までいました。給付金や協力金が届けば何とかなるが何カ月も滞っている、という話もあります。

 それぞれに異なった状況や事情がありますから一概には言えませんが、私だったらどうするのか――。
 私だったら、おそらくどんなに苦しくても不平不満を言わず、粛々と政府や自治体の要請に応えようとするでしょう。

 アルバイトには辞めてもらうしかありませんし、辞めさせれば店を再開するときに戻って来ない可能性もありますが、それは私の徳の問題です。材料を納入してくださっている業者さんに対しても何もできませんが、いずれ死ぬほど働いて以前の倍も納入してもらうこととしましょう。
 その上で耐えきれなければ、借金を抱えたまま廃業するまでです。しばらくハケンでもしながら食いつないで、再起を期すことにしましょう。真面目にきちんと働いていれば、いつか手を貸してくれる人も出てくるはずです。

 家族にも苦しい思いをさせます。しかしだからと言って国や都の要請を振り切って酒を提供し、深夜まで営業して儲けようとは思いません。
 なぜならそれがみっともない行為だからです。それが私の矜持です。

 

 

【自営業者の誇り】

 困ったときに必ず助けてもらえるような安定した生活がしたかったら、公務員か会社員にでもなればいいのです(だから私は公務員になった)。しかしそうなると一生、誰かの指示で動かなくてはなりません。上司に頭を下げるのは、銀行や顧客に頭を下げるのとはまったく違います。頭を下げたところで収入が増えるわけではないのです。

 いやしくも自営業を選択し、一国一城の主となったからには、リスクもリターンも全部自分のもの。農業をやれば気象や相場に左右され、商売をすればライバルや景気に動かされます。パンデミックまで織り込んで始めた人もいないと思いますが、織り込めない天災や事件は他にいくらでもあります。
 その代わり、運と能力があればいくらでも稼ぎを増やすことができる—―その自立性こそが自営業者の誇りであり、守るべき道徳の第一歩だと思うのです。
 収入が不十分だから、支援が不十分だから国や都の感染対策に協力できないというのは、ほんとうにみっともないことだと思うのです。

 昨日テレビで見た
ホントに、お国と東京都には感謝しているよ。
と語る店主は、交付金や協力金を予定外の収入と考えているのでしょう。支出も収入もすべて自分の手の内にある、そこに予定外の収入があったので「感謝している」という言葉が出てきたのです。
 飲食・宿泊業の大部分は黙々粛々と要請に従っています。ですから口に出さないだけで、同じ思いの人はいくらでもいるはずです。