カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「年寄りに必要な『キョウヨウ』と『キョウイク』」~母の誕生日に寄せて

 母が93歳になった。大変なことだ。
 ところで、老人にこそ、
 「キョウヨウ」と「キョウイク」は必要だという。
 何のことか分かるだろうか。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200707071503j:plain(「ひとりぼっちの老後」フォトACより)

 

【母が93歳になる】

  今日、7月7日は母の誕生日です。昭和2年生まれで93歳になりました。
 この「昭和2年生まれ」というのは絶妙で、昭和の元年は一週間しかありませんでしたから、「1年早く生まれたら『大正生まれ』の仲間にさせられるところだった」と、何回も話してくれたことがあります。(恐ろしいことに?)今も元気な二人の姉がともに「大正生まれ」で、そこに多少の優越感を持っているみたいです。
「昭和生まれ」だの「平成生まれ」だのと言った話は今でもしますよね。

 その流れで言いますと、私の二人の子どもはともに平成の一ケタ生まれですが、娘婿のエージュだけは母や私と同じ「昭和生まれ」になります。34歳なのに93歳と同じ仲間、それだけ「昭和」が長かったということですが、エージュには気の毒なような気もします。今はまだ若いからいいですが、しばらくしたら「昭和のおじさん」扱いです。
 年号は違いますが母と同じ「2年生まれ」の娘は、もしかしたら将来、「平成生まれ」の優越感をもって夫に接するのかもしれません。
 
 

【なんとか元気】

  腰は曲がって歩きはゆっくり、立ったり座ったりが大変ですが内臓に問題を抱えたことがないので“あと10年は生きてしまいそうだ”とさかんに嘆きます。「早く死にたい、(天国の)お父さんはなぜ迎えに来てくれないのか」としょっちゅう恨みがましく言っていますが、地震がくると本気で怯え、大雨が降ると大真面目で洪水を心配します。川は家からずっと下の方にしかないのに。

 そんな母を見て弟は、
「そんなに死にたいなら強盗が来た時に、命は取られてもいいけど(遺産になるはずの)金は取られんようにね」
などとからかいますが、根っからの臆病者で、毎晩の戸締りは欠かしません。私がくると分かっているのに鍵をかけてしまうこともあるくらいです。しかしどうやらその背景には、二人の姉よりは先に逝きたくないという対抗心もあるみたいです。

 週2回のデイケアセンターが面倒くさくなって、辞めたい、辞めたいとしょっちゅう言いながら、行って帰ってくるとそれなりに満足そうです。センターの職員が喜んでくれると言ってせっせと布製のマスクを作ったりもしています。
 
 

【年寄りに必要な「キョウヨウ」と「キョウイク」】

 9年前の東日本大震災の年に父が亡くなってから、母には実家で一人暮らをしてもらっています。私の家から20分のところです。
 一時は引き取って一緒に暮らすことも考えたのですが、いろいろ助言があって結局はやめました。一番多かったのが「場所を変えるとボケが進むよ」というものだったからです。

 その話は確かみたいで、私の歳になると知り合いのあちこちで「母を引き取った」「父を引き取った」という話を聞くのですが、どこもあまりうまくいっている様子がありません。どうしてもお客さんになってしまい、いろいろとやらせてもらえないのです。やらないとできなくなる。

 私のところでも5~6年前、一度だけ来てもらったことがあるのですが、一日中テレビを見ているくらいしかやることがありません。勝手がわからないので台所にも立てない、縫物ひとつにしても針や糸の場所がわからない。畑も小さいので草取りをやってもすぐに終わってしまう。そもそもその冬の間、畑は雪の下です。1年じゅうできる仕事ではありません。

 ものの置き場所などをひとつひとつ覚えていけばいいようなものですが、使い慣れたミシンだの、大量の糸や布の在庫といったものは全部実家から運ばなくてはなりません。しかも配置もほぼ依然と同じにしなくてはならない。だとしたらそれよりは母を独り暮らしさせておいた方がいい。
 食事ひとつ、お茶の一杯でも自分でやらなくてはならないとなると、どうしても動かざるを得ません。それが運動にもなります。
 年寄りには「今日、やるべき用事(キョウヨウ)」と「今日、行くべきところ(キョウイク)」がどうしても必要なのです。
 デイケアセンターにも、面倒でも行ってもらいましょう。その代わり週のうち6日は、夜、私が母の家に行って用を足し泊まってくることにしました。残りの一日を、まだ勤めている弟が面倒を見ます。そんな生活が今年で8年目になります。
 
 

【それもおもしろいかもしれない】

 迷惑をかけて申し訳ないと母は言いますが、別に迷惑だと思ったこともありません。逆に長生きしてくれとも思いませんし、ただ淡々と、今の生活が永遠に続くといいなあくらいはボンヤリと思っています。

 100歳を過ぎて有名になった双子の金さん銀さんは、
「テレビにもたくさんお出になって、随分お稼ぎになったんじゃないですか? お金はどうするおつもりですか?」
と聞かれて、
「老後のために蓄えておきます」
と答えたとか。

 ギネスにも載った120歳の泉重千代さんは好みの女性を尋ねられて、
「年上の女性」
 また、健康の秘訣を問われると、
「4年前(116歳の時)に禁煙したことかな?」

――母もそんなふうになってくれたら面白いのですが。

 ハハ。