日本ではファックスなどという旧時代の機器がはびこっている。
何と遅れた国なんだと、世界が笑っているそうだが、
あの機械、そんなに悪いものか?
というお話。
【日本のファックス文化が笑われている】
もっとも「世界の笑いものになっていると、日本人だけが言っている」場合も少なくないので眉に唾をつけて聞かねばなりません。今、世界は自国の新型コロナ対策で手一杯いっぱいなので、他国の不備を笑っている暇などないと思うのですが。
それに日本がダメだとして、他の国々はどんな方法で正確な統計をとっているのか、そのあたりも聞いておきたい気持ちがあります。
今回のコロナ事態を早くから予想して国内のすべての医療関係施設をオンラインでつないで直接本部のコンピュータに入力できるようにしてあった国・地域――もしかしたら韓国・台湾あたりはそうかもしれませんが、それが欧米諸国にある気はしません。
Web上に入力フォームをつくるという方法もありますが、それの何がいいのかも分かりません。緊急時に新たなシステムを導入して、プログラムミスで混乱したり、不慣れによるミスを誘発する必要もないでしょう。
直接入力でもファックスでもなく、もちろん通話・郵送・電報でもないとしたら、Eメールくらいしか思いつかないのですが、添付ファイルというのもコロナならぬコンピュータ・ウイルスを考えると怖くて使えません。そもそも添付ファイルで送るくらいならファクスで十分です。
そこで考えたのですが、そもそも“諸外国は合理的で迅速・正確な報告・集計を行っている”という前提からして疑ってみる必要もあります。
全国の感染者数を集計するという、それ自体が大変な作業ですし、例えばイギリスでは病院で亡くなったコロナ患者は集計されますが福祉施設で亡くなった数は計算されていないとか、あるいは中国では無症状の感染者は感染者として数えないとか、統計の基礎となる部分からいい加減だったり違っていたりすることもあります。ダメなのは日本だけではないのかもしれない。
そこで、とりあえず最も厳格な統計づくりをしていそうなドイツを例に調べます。
【実は多くの国で正確な集計ができていない】
右は日経新聞からお借りした、先月末までのドイツにおける新規感染者数の推移を現したグラフです。(新型コロナウイルス感染 世界マップ)
見ればわかる通り、感染者ゼロの日が期間内に三日もあります。そうかと思うと3月19日には新規感染者が2801人だったのに翌20日には一気に2倍以上の7324人に増え、21日は半分以下の3140人。さらに翌日(22日)はゼロ。23日はまた3311人と激しく上下します。3311人は妥当な数字ですが前日のゼロはダメでしょう。
日経新聞のミスかとも思ったのですが、ニューヨークタイムスのグラフでも同じですから間違いありません。
日経の世界マップではどこの国も同じようなもので、ドイツはまだましなくらい、フランスなどは真面目に集計しているのか疑いたくなるほどばらつきが大きいのです。
考えて見れば感染拡大の時期はどの国や地域も混乱の極みにあったはずです。報告の迅速さ正確さなどは二の次で、対策に追われていたに違いありません。報告し忘れたり集計をミスしたり、訂正したり、再訂正したり、まとめて三日分あげたりと、さまざまなミスが重なってあんなグラフになったのでしょう。
日本でも東京にみるようにミスはありました。しかし諸外国に比べたらずっと少なく、ファックスでのやり取りにしてはよく善戦したと言えるでしょう。
いや、ファックスだから善戦できたのかもしれません。
【ファックスの優位性――すべての文書は“紙”にされなければならない】
2009年には全国の世帯の57.1%にも普及していたファックスは、今や30.9%(2018年)にまで落ち込んでいます。しかし事業所に限ると今も95%が活用しているそうです(情報通信機器の保有状況の推移《平成30年通信利用動向調査》)。かくいう私も学校勤務時代には毎日のようにお世話になっていました。なぜいつまでもファックスなのか――。
答えは簡単です。便利だからです。
前提として学校に来る連絡のほとんどは紙に変換されなければいけないということがあります。Eメールの添付ファイルで送られてきたものでもプリントアウトして綴ります。
とにかく紙は一覧性に優れ、両開きのA4ファイルに綴じ込んでおけばパラパラとページをめくって、どこにどんな情報があるかすぐに探し出せます。基本的に時系列でつづられますからどんなに厚いファイルでも、というよりは厚い方が、どのあたりに必要書類があるか、すぐに分かるのです。
一度、綴じた紙は悪意によって修正することは困難で、信頼性という点でも電子データを上回ります。電子ファイルはいちいちパスワードを設定しないと、簡単に書き換えられてしまいます。
善意による修正の場合でも紙の方が優位で、電子データだと元の記載を残したまま修正するのが難しく、コピーをして修正をすると今度は大量のクローン・ファイルに悩まされたりします。その点、紙だと修正は赤ペンで書き込めばいいだけですから簡単です。どこが修正されたかも残せます。
綴じるという作業さえ怠らなければむしろ安全で、電子データのように予定外の“ファイル”に落として行方不明にしてしまうとか、うっかり“ごみ箱”に捨ててしまうということもありません。
そして、これは日本特有のことですが、印鑑を必要とする書類はやはり紙でなくてはなりません。
つまり基本的に届いた文書は紙に置き換えられなければならないのですが、だったらいちいちプリントアウトするのではなく、最初から紙で送られてくる方がよほど楽なのです。
以上は受け手の側から見た便利さです。しかしファックスは送り手にとってもかなり便利なものです。
【送り手にとって便利な事情】
とにかく開封率が高い。
着信があるとランプの点滅がうっとうしく、機種によっては強制的に印字された紙が出て来ますので、意図的に無視しない限りは読んでもらえます。
Eメールだと時に“迷惑メール”に振り分けられてしまったり、ひとによっては放置されたりしますから、日常的にやり取りしている相手でないと信頼できません。Webサイトで公開しておきながらほとんど使っていないメール・アドレスや、スパムメールが多すぎて管理を諦めてしまったアドレスというのはけっこう多いものです。
ファックスの文書はほとんど瞬時に届きますから、電話をかけながら「今、送るから」と言って送信することもできます。
操作が簡単で、電子機器の苦手な人でも扱えます。
電話でうまく説明できないとき図に描いて補足しようとしても、電子データだと専用ソフトで絵を描くか手書きをスキャナで読み込んで送るしかありません。その点ファックスだと手元の紙に描いて送るだけです。実に簡単です。
そもそもパソコンと違って電源を入れて立ち上げるということもありませんから、その点でも便利です。
ここまでくると、なぜこんな便利な装置が外国ではすたれてしまったのか、その方が不思議なくらいです。
それと、繰り返しになりますが、日本以外の先進国が、どんな先端システムであんなふざけた統計をつくり上げたのか、聞いてみたいものです。
(この稿、続く)