「先生! あなたの勝利です!」~家庭科の価値が見直されるとき

 突然、家庭用ミシンが売れ始めた。
 家電ではホットプレートが売れ、台所小物が売れる。
 スーパーマーケットは東京都知事が心配するほどの大盛況だ。
 先生! 今こそ見直されているよ!

というお話。

f:id:kite-cafe:20200423072213j:plain(「ミシン」フォトACより)

【ミシンとスーパーマーケット】

 価格が1万円前後のミシンの売り上げが好調だそうです。
 Amazonで調べたら、在庫ありと表示されているものの、大部分は5月半ば以降の“お届け”で、中には6月にならないと発送のできない機種もあるくらいです。

 なぜ急に降ってわいたようなミシンブームなのか?
 もちろんマスクを縫うためです。

 別の話。
 小池東京都知事が、
 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、都が徹底した外出の自粛を要請する中、スーパーマーケットなどで客が多く訪れて、密集の状態が発生しているとして、早急に対応を検討する考えを示しました。(2020.04.22 NHK「新型コロナ “スーパーなどで客が密集” 東京都が対応検討へ」)  なぜそんなにスーパー・マーケットが混むようになったのか?
 もちろん外食を避けて、家で食事をつくるようになったからです。
 冷凍食品やお惣菜、あるいは持ち帰り弁当も多いでしょうが、それだけでは飽きますから、渋々、手作り部分も多くなっていると思います。

 日本全国、レストランや食堂は閉じているか、開いている場合もぐんと客が少なくなっています。みんな何とか家庭内でやっていこうとしていいるのですね。

【ホットプレートとシリアル】

 今回のコロナ事態で経済はさんざんですが、一部の業界あるいは一部の商品については「コロナ特需“と言われるような好況に恵まれているそうです。

 マスクや除菌アルコールなど衛生関連の商品、トイレットペーパーやティッシュペーパーといった紙製品はもちろんですが、電機関係では在宅勤務に必要なPCカメラなどの機器、意外なところではホットプレート。
 生活用品では使い捨てのゴム手袋、料理や食材を入れておくジッパー付きのプラスチック保存袋など。
 他にもトランプやボードゲームといった古くからあるゲーム類、キャンプ用品、バランスボールなどのエクササイズ用品など、なんとか家で時間をやり過ごそうと努力する様子がうかがえます。(AERA.com 2020.03.29「『え、こんなものが?』 コロナ騒動で思わぬヒット商品」他)
  中でも注目したいのはホットプレート、ゴム手袋、ジッパー付きプラスチック保存袋、家庭で調理するための道具です。

 これがアメリカだと、衛生関連用品・紙類は同じですが、食品は備蓄ができるパスタあるいはコーンフレークなどのシリアル、オレンジジュース、風邪のウイルスから体を守る成分をもつと言われるにんにく類(魔除けの意味もあるのか?)、アイスクリームにスナック類、ポップコーン、ポテトチップス。
 そしてパン酵母、キッチン家電のホームベーカリーもよく売れているとのことです。(FASHIONSNAP.COM 2020.04.08「新型コロナウイルスの影響で意外な商品の売り上げが急増」)

  アメリカの一般家庭における食生活はすでに崩壊しているという話が出たのはもう20年以上前のことですが、危機に際してシリアル、スナック、アイスクリームを買い込もうという発想は日本にはないでしょう。

 その代わりにあるのは、ホットプレートを買い、今まで使ったことのなかった使い捨て手袋で調理をし、料理の余った分はジッパー付き保存袋に入れて冷蔵庫にしまっておこうとする、にわか家庭料理人たちの意気込みです。
(あ、アメリカにもパスタ料理をつくりパンを焼こうという人もいるのですから、その点も取り上げておかないと不公平ですよね)

【ミシンもホットプレートも、軽い気持ちで買ってムダにならない国】

 1万円もするミシンを買っても、ホットプレートやこまごました台所用品を新しくそろえても、それをムダにしない自信が私たちにはあります。

 60歳をとうに過ぎたジジイの私だってミシンくらい軽く扱えます。それどころか手縫いで、なみ縫い、半返し縫い、本返し縫い、まつり縫いからチェーンステッチだってできます。
 ホットプレートを前に、ピーマンや玉ねぎをどう切ればいいのか、包丁を使うときの注意事項、調理の手順、すべて迷うことがありません。みんな知っています。なぜなら、
 全部、学校で教わった
からです。
 被服・調理だけでなく、家電の使い方、住居の営繕、掃除の仕方、赤ん坊の扱い方から老人介護まで、みんな小学校と中学校の家庭科の先生に教えてもらいました。それがなかったら家庭人としての私にどれほどの実力があったのか――。

 ちなみに私は小学校で、家庭科を男女共学で学んだ初めての世代です。しかも当時は手先が器用だったので、女の子に教えるくらい、特に縫いものは得意でした。その後一人暮らしが長かったこともあって、最低限の調理、栄養管理はずっとしてきましたし、被服については今でも取れたボタンの修理くらいは自分でします。

 しかし一度もミシンに触れたことのない人は、あれがとんでもなく簡単な機械で、わからないことがあってもネットでちょっと調べる程度で、すぐに使えるようになるものだとは、夢にも思わないでしょう。ですからマスクの自作を思いついても、ミシンまで買おうという気にはならないはずです。
 マスク制作のためにミシンの売れ行きが上がったなどという国はおそらく多くはないでしょう。家庭科のない国ではたぶん無理です。
 被服ばかりでなく、調理の方でもパスタ、シリアルがせいぜいでしょう。

【先生! あなたの勝利です!】

 私は昔、「教科の(重要性の)Uの字説」というのを唱えたことがあります。

kite-cafe.hatenablog.com 中学校の9教科、国・社・数・理・英・音・美・体・技を、Uの字の線上に乗せていくのです。
 左の一番上が「国」、右の一番上に「技」が来るので、それを左右順番に読んでいくと、国・技・社・体・数・美・理・音・英の順になる、それが“生きていく上での教科の重要性の順位”という説です。

 私は常に技術家庭科に高い地位を与えてきました。しかし世間的にはあまりにも軽んじられてきたように思います。家庭科の得意な子は英語・数学のできる子よりはずっと低い地位しか与えてもらって来なかった、それが今、新型コロナ事態のような危機的状況で、燦然と輝きを増しているのです。

 私の小学校の時の家庭科の担任は、丸山先生というお名前でした(下の名は忘れた)。その先生に今こそ言います。

 丸山先生! あなたこそ勝利者です!