東北旅行 最後の一日 旅行惨題
『会話のない旅』
『松島が ああ松島が 松島が』
『人恋しくて・・・』
という話。
(四大観のひとつ富山《とみやま》から松島を見下ろす)
【会話のない旅】
私に助言をくれた友人について、昨日は「7月に東北から北海道に至る一人旅をしてきました」と書きましたが、これが実に二十日間に及ぶ長旅だったのです。よくも飽きなかったものだ・・・。
私はといえば帰路の一人旅がたった一日で嫌になってしまいます。
運転も嫌いではありませんし見てきたところはすべて意義ある場所です。勉強にもなりました。それ自体は悪くなかったのです。
しかしいかんせん一人旅なので話をする相手がいない。運転中は無言、見学中も無言、買い物やホテルのフロントで二言三言かわすきりで、会話というものがほとんどない。
4年前に出かけたイタリア旅行は息子と一緒でしたから、あれこれ相談したり感想を聞いたり蘊蓄を語ったりと、何かとしゃべることが多かったのです。今回、岩手へ向かう道すがらも、古女房とは言え人間ですからさまざまに話すことができました。ところが帰路は独りぼっち。丸一日、ほとんど無言です。これは耐え難い。
私に助言をくれた友人は二十日間もどうやってこの孤独に耐えたのか・・・そう考えたら気がつきました。彼ならきっと行く先々で誰かに話しかけていたはずです。間違いありません。
彼はそういう人で、私はそうではないのです。この年齢で人見知りとも言いたくないのですが、面倒くさがりであることは間違いありません。
そこで旅を楽しくすべく、思い切って誰かに話しかけてみることにしました。若いころと違ってさほど勇気のいることでもありません。
すると機会はすぐにやって来ました。
二日目の朝の朝食バイキングは会場が狭く、いたるところに相席ができていました。私が選んだのは、若い男の子が一人座る二人テーブルです。
食べ始めて、
「一人旅ですか?」
と尋ねると気安く乗ってきます。
横浜で働く入社2年目の青年で、友だちと二人で朝食をとっていたところ、寝不足の友人は食事もそこそこに二度寝に戻ったといいます。そこでしばらく旅行の話だの仕事の話だの、被災地を回ってきたことやこれからの予定などを話して食事を終えた青年が先に席を立つまで、10分間ほど楽しい会話を交わすことができました。
悪くなかった。気分もよかった。さわやかな青年だった――しかし、だから?
気分よく相手をしてくれた青年には失礼ですが、私はやはりそういう出会いを楽しむ性質ではないのです。家族や友人だといいのですが、どうしてもどこかで身構えてゆったりできません。
しばらくして空いた前の席に座ったのは、私とさほど変わらない、熟年というか初老というか、その前後の女性です。
「おひとりですか?」
「はい」
「どちらから来られました?」
「東京です」
「・・・・・・」
――終了。
あからさまに迷惑顔をするわけではありませんが、そうした場面でチャキチャキ話すタイプでもなさそうです。それに考えてみたら熟年女性の一人旅というのも、訳あるときは「訳アリ」そうです。前に座ってしまったのだから仕方ありませんが、相手を間違えたのかもしれません。
こうして私の小さな初体験は終わってしまったのです。
しかしいかんせん一人旅なので話をする相手がいない。運転中は無言、見学中も無言、買い物やホテルのフロントで二言三言かわすきりで、会話というものがほとんどない。
4年前に出かけたイタリア旅行は息子と一緒でしたから、あれこれ相談したり感想を聞いたり蘊蓄を語ったりと、何かとしゃべることが多かったのです。今回、岩手へ向かう道すがらも、古女房とは言え人間ですからさまざまに話すことができました。ところが帰路は独りぼっち。丸一日、ほとんど無言です。これは耐え難い。
私に助言をくれた友人は二十日間もどうやってこの孤独に耐えたのか・・・そう考えたら気がつきました。彼ならきっと行く先々で誰かに話しかけていたはずです。間違いありません。
彼はそういう人で、私はそうではないのです。この年齢で人見知りとも言いたくないのですが、面倒くさがりであることは間違いありません。
そこで旅を楽しくすべく、思い切って誰かに話しかけてみることにしました。若いころと違ってさほど勇気のいることでもありません。
すると機会はすぐにやって来ました。
二日目の朝の朝食バイキングは会場が狭く、いたるところに相席ができていました。私が選んだのは、若い男の子が一人座る二人テーブルです。
食べ始めて、
「一人旅ですか?」
と尋ねると気安く乗ってきます。
横浜で働く入社2年目の青年で、友だちと二人で朝食をとっていたところ、寝不足の友人は食事もそこそこに二度寝に戻ったといいます。そこでしばらく旅行の話だの仕事の話だの、被災地を回ってきたことやこれからの予定などを話して食事を終えた青年が先に席を立つまで、10分間ほど楽しい会話を交わすことができました。
悪くなかった。気分もよかった。さわやかな青年だった――しかし、だから?
気分よく相手をしてくれた青年には失礼ですが、私はやはりそういう出会いを楽しむ性質ではないのです。家族や友人だといいのですが、どうしてもどこかで身構えてゆったりできません。
しばらくして空いた前の席に座ったのは、私とさほど変わらない、熟年というか初老というか、その前後の女性です。
「おひとりですか?」
「はい」
「どちらから来られました?」
「東京です」
「・・・・・・」
――終了。
あからさまに迷惑顔をするわけではありませんが、そうした場面でチャキチャキ話すタイプでもなさそうです。それに考えてみたら熟年女性の一人旅というのも、訳あるときは「訳アリ」そうです。前に座ってしまったのだから仕方ありませんが、相手を間違えたのかもしれません。
こうして私の小さな初体験は終わってしまったのです。
【松島が ああ松島が 松島が】
早朝の門脇小学校の、ネットの張られた姿を写真に撮って、仙台に向かうにはまだ時間があったので「石ノ森漫画館」を見学し、石巻市内を出たのは9時半ごろでした。時間をつぶすつもりが余計な時間を使ってしまい、そこから一時間、次は仙台市立荒浜小学校(「完璧な避難・心の準備」~被災地をめぐる旅⑥ - カイト・カフェ で報告済み)です。
石巻河南ICから三陸道に乗り、成瀬奥松島ICから松島ICを過ぎたら看板に「松島大郷IC」「松島海岸」と出ています。
普通の観光のことはまったく考えていなかったので松島のことは頭になく、松島というところももっと北の方にあるくらいに思っていたのです(元社会科教師なのになぜそんな勘違いをしたのだろう?)。
気づかなければそれまでだったのですが気づいてしまえば仕方ありません。「松島海岸」が近づくあいだもさんざん迷ったあげく、とりあえずインターチェンジで降りて空き地に車を停め、検索にかけることにしました。するとなんと松島はそこから3km弱、たった7分の距離です。
そういえば「松島を見て死ね!」と言います(言わないか?)。
二度と来そうにない土地、ここまできてやり過ごすのはいかにも残念です。行くしかありません。
GO!!
ところがものの5分も走らないうちに渋滞。しかも大渋滞。
今回の旅行は行く先行く先どこも空いていたのでまったく忘れていたのですが、世は三連休。いかに天気が悪いとはいえ一流の観光地に人が集まるのは当然です。
にっちもさっちもいかない渋滞をようやく松島公園まで来ると、駐車場にも長い列。
《仕方ない、来るには来た、後悔は残らない》
そんなふうに考えて、渋滞を引き返すのも難しいためそのまままっすぐ反対側に抜けてからハタと思い出しました。さっき調べたときに松島を遠くから眺める四大景観(正しくは「四大観《しだいかん》」)とかがあったのです。
そこでまた停車して調べると一番近い四大観は「富山(とみやま)」です。そこだったら行けるかもしれません。GO!!
ところがこれがかなり厄介でした。
まず富山展望台に向かう脇道を見過ごします。第一級の景観に向かうにしてはあまりにも寂しい入り口。看板も小さい。
さらに脇道に入ってびっくり。軽自動車でもすれ違えるかどうかといった細い道を延々と登らされるのです。転回できる場所もないので引き返すこともできません。

もうここまで来たら意地です。その場に車を置くと、霧の薄く広がる石段を一気に駆け上りました。いや駆け上ることのできた分だけ駆け上って、あとは歩きました。数えながら行ったらなんと241段もあったからです。
そしてついに登った先には富山観音堂、反対側のがけに展望台、そこから眺めた風景がこれです。
なんと低く垂れこめた雨雲に遮られて、ほとんど何も見えなかった。
「松島が ああ松島が 松島が」
結局、松島まで来て松島を見ず、再び241段を駆け下りて、予定よりずいぶん遅くなって仙台市立荒浜小学校に向かいました。
「松島が ああ松島が 松島が」
結局、松島まで来て松島を見ず、再び241段を駆け下りて、予定よりずいぶん遅くなって仙台市立荒浜小学校に向かいました。
【人恋しくて・・・】
荒浜小の見学を終えるとあとは予定がありません。
次はどこへ行くか。
隣の福島県は一通り回っているのでとりあえず次の栃木県。
日光東照宮は4歳の時に行ったきりで記憶がなく、東武ワールドスクウェア(世界の重要建造物のミニチュアがある)は息子のアキュラが行ってなかなか良かったと言うし、大谷石の採石場跡「大谷資料館」も捨てがたい。
どこかに一泊して明日はそのあたりを巡ったらどうかと調べたら、最初に検索した東武ワールドスクウェアは入場料2800円。
2800円も払ってひとりで黙って見学してそれでどうなるのだ?
いつもの悪い癖で意欲は一瞬にして萎えます。
もしも途中で疲れ切って運転が嫌になったらそこで泊まるにしても、とりあえず行けるところまで行ってあとはまっすぐ家に帰ろう――。人恋しさにそんなふうに決めて走りだしました。
その結果が約8時間、500㎞あまり(総計一日612㎞)。結局その日のうちに自宅に戻ってしまいました。
次はどこへ行くか。
隣の福島県は一通り回っているのでとりあえず次の栃木県。
日光東照宮は4歳の時に行ったきりで記憶がなく、東武ワールドスクウェア(世界の重要建造物のミニチュアがある)は息子のアキュラが行ってなかなか良かったと言うし、大谷石の採石場跡「大谷資料館」も捨てがたい。
どこかに一泊して明日はそのあたりを巡ったらどうかと調べたら、最初に検索した東武ワールドスクウェアは入場料2800円。
2800円も払ってひとりで黙って見学してそれでどうなるのだ?
いつもの悪い癖で意欲は一瞬にして萎えます。
もしも途中で疲れ切って運転が嫌になったらそこで泊まるにしても、とりあえず行けるところまで行ってあとはまっすぐ家に帰ろう――。人恋しさにそんなふうに決めて走りだしました。
その結果が約8時間、500㎞あまり(総計一日612㎞)。結局その日のうちに自宅に戻ってしまいました。