「本庶先生のノーベル賞受賞を聞いて」〜免疫療法の希望と不安

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 ストックホルム市庁舎 黄金の間)

 

オプジーボ

 京都大学本庶佑先生がノーベル医学・生理学賞を受賞したと大きなニュースになっています。夢の抗がん剤オプジーボ」の開発につながる重要な発見をした人です。  

 私はちょうど一年前、義姉のがんの関係で「免疫チェックポイント阻害剤」に関する市民講座を受けていたので(2017/11/15「さまざまな病気についてあれこれ学んだ話」〜病院を3軒ハシゴしてきた)研究内容についてはよく理解でき、先生とは無関係なのに心から受賞を喜ぶことができました。

 

 オプジーボという薬は、言わばがん細胞が「仲間だから攻撃しないでね」と差し出した手(PDーL1またはL2)を、免疫細胞の手(PD―1)が握り返す前に押さえてしまう薬です。  オプジーボが先に手(PD―L1)を出して免疫細胞と握手してしまうため、がん細胞は免疫細胞の手を握りたくても握れない、友だちだとは認識してもらえない――だからいったんスイッチが入ると手のつけられない暴れん坊のミクロの戦士(=免疫細胞)は、たちどころにがん細胞に襲い掛かるのです。

 

 オプジーボについては伝説的な話があって、元総理の森喜朗さんが肺がんで死の淵まで行った時、これで助かったと言われています。

 森さんはすっかり死ぬつもりでしたから「遺書」という本にJOCや小池東京都知事の悪口をありったけ書いて出版直前だったのですが、治ってしまったので仕方なく「遺」と題名を変えてそのまま出版してしまいました。本の中身を変えないのがいかにも森さんらしいところですが、これによって国立競技場建て替えや五輪会場見直しなどの内幕も明らかになり、同時にオプジーボの名声も定まったのです。

(「遺言」出版の事情は産経ニュース《2017.4.16【森喜朗の「遺書」】「JOC、もう最悪」「小池百合子さん礼儀が…」「文藝春秋も度量が狭いね」》に詳しい)

 

 

【免疫チェックポイント阻害剤の希望と失望】

 本庶先生の業績は免疫細胞の働きを抑制する手(PD―1)と対応する細胞の手(PD―L1またはL2)を発見し、その働きを明らかにした点です。この手と手が結び合う仕組みを「免疫チェックポイント」と言い、それを遮るオプジーボのような薬を「免疫チェックポイント阻害剤」と言います。本庶先生と共同受賞のジェームズ・アリソン博士が発見したのも別の「免疫チェックポイント阻害剤」につながる仕組でした。  免疫細胞の動きを活性化させる(オプジーボについて正確に言えば「沈静化させない」)ことによってがん治療を行おうとする試みはすべて「免疫療法」ですが、これまでの研究ではほとんどの免疫療法に有効性(治療効果)が認められていません。

 

 現在のところ臨床研究で効果が明らかにされているのは「免疫チェックポイント阻害剤」などの一部に限られ、治療効果が認められるがんの種類も限られているのです。ここに一番の留意点があります。

 

 昨年11月の市民講座に出かけたのは義姉がまさにその「免疫療法」を行おうとしていた時期で、大いに期待をかけて出かけたのです。しかし義姉の胆管がんに適応する「免疫チェックポイント阻害剤」はなく、他の「免疫療法」は効果が怪しいとなると聞いた私自身は意欲を失いました。

 外見上すこぶる状況が良いように見えていて、新しいことに挑戦させる気になれなかったということもあります。

 

【心配なこと―怪しい「免疫療法」が山ほどある】

 しかし義姉はこのころからようやくあれこれ試してみる気になっていて、私もその流れに巻き込まれていきます。そして調べてみると世に「免疫療法」と呼ばれるものは何種類もあったのです。

 あるものは免疫細胞の数自体を増やそうという試みで、別のものは免疫細胞の活性化――いわば「やる気スイッチ」を押しまくろうというもの、また別のあるものは体内から免疫細胞を取り出して特殊な遺伝子を組み入れ「やる気」を増して体に戻すといった具合です。  自由診療ですので費用も千差万別。基本的には超高額医療、保険対象外ですので全額自腹です。

 この「たくさんの『免疫療法』」については、国立がん研究センターのサイト「がん情報サービス」の「免疫療法 まず、知っておきたいこと」に分かり易く説明してあります。免疫療法を「免疫療法(広義)」と「免疫療法(効果あり)」に分けて説明しているところに、この治療法の問題性が垣間見られます。  さらに続きの「免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ」も、さほど難しいものではありませんから参考にしてみるといいでしょう。

 

 本庶佐先生のノーベル賞受賞によって免疫療法に対する注目は一気に高まるはずです。しかしオプジーボほどの効果の見られる薬や治療法は非常に少なく、その「免疫チェックポイント阻害剤」にしても副作用はあり、適応になるがんの種類もまだまだ多くはありません。

 そうした状況もはっきりしておかないと、一度覚悟を決めた人に無慈悲な希望を与えたり、無意味に大量の治療費をつぎ込んだりということになりかねません。

 

 ほんとうに夢のような治療法ですから、眉にツバをつけ、頬をつねりながら慎重に近づく必要があります。

 

※ちなみに5日発表される平和賞について、イギリスのブックメーカー各社は「トランプ&金正恩」を候補の第1位に上げており、中には1倍の倍率をつけたところもあるそうです。

 恐喝まがいの貿易交渉で名を馳せ、人種差別主義の守護者でもあるトランプ大統領と、核ミサイルの開発に余念なく、東アジアに緊張感を生み出し、親族でさえ平気で手をかける独裁者金委員長が「平和賞」を取るようなら、世界の秩序は滅びます。

 もっとも1倍の賭け率では買う人もいませんからブックメーカーによるタチの悪い話題づくりだと思うのですが、こうした冗談が公然と語られるのは、やはりヨーロッパがあまりに遠く、東アジアの緊張感が全く伝わっていないからかもしれません。