「お月様の話」〜月はどっちを見ているの?

ジャン=フランソワ・ミレー 「月明かりの羊小屋」(パブリックドメインQ)

【雨月】

 昨日、5月に関するウンチクを書き並べようと思って調べているうちに、wikipediaに5月の別名として、

ななえづき(稲苗月)、いろいろづき(五色月)、うげつ(雨月)、けんごげつ(建午月)、つきみずづき(月不見月)、さつき(皐月)、さなえづき(早苗月)

等々が並んでいるのを見つけました。

 私としては、どうしてそういう名がついたのか、一つひとつ調べて記録しようと思ったのですが早くも「雨月」で躓きます。私の記憶では、「雨月」は暦の月の話ではなく、雨や曇りのために見えない月、つまり天体の月を表す言葉だったのです。「雨月物語」は「五月の物語」じゃないと。

 そこで調べると、

1 名月が雨で見られないこと。雨名月。雨の月。《季 秋》

2 陰暦5月の異称。

デジタル大辞泉

とあります。

 私の知識の価値は、暦の「雨月」を知らなかったことで半分以下になり、単なる月でなく、名月でなければいけないということで半分の半分以下に減ってしまいました。半可通ならぬ四分の一可通といったところです。

 ただし、かつて「雨月」と聞いて、

「ああ日本人は雨が降っても月見かよ」

と感心したのは正しい見方で、その点ではホッとしています。

【月はどっちを向いてるの?】

 ところで天体の方の月について、

「三日月って、どっちを向いてる月なの?」

と聞かれ、返事に窮したことがあります。子どもではありません。妙齢の女性からです。

 もちろん「顔を描いたとき左を向いてるのが三日月だよ」と言ってやるのは簡単です。しかしそんなことすぐに忘れてしまいますよね。

 これが子どもだったらたっぷり時間をかけ、月の運航から説明して知識がしっかり定着するよう配慮するところですが、大人の他愛ない会話の中で出てきた質問です。そんなに大真面目に話すことでもありません。それで困りました。

 そのときはうまく説明できなかったのですが、後に先生方の間で話題にしたら、やはり知恵者はいるものです。こんなふうに教えてくれました。

「普通の人が、右手にペンを持って、自然に描く月が三日月です」

 なるほど。

 ペンというのは「引く」ように使うのが基本ですから、右手多くで自然に描くとどうしても三日月になりやすいのです。逆の月を描くには、ペンを少し送るように使うので抵抗があって描きにくくなります。

 ただしアルファベットの「a」や「s」、数字の「8」や「9」も右から左にペンを走らせます。ですから右向きの細い月を描く人もいるかもしれません(実際にいます)。

 そこで言い方を変えて、

「たくさんの人に三日月を描かせたとき、より人が描く月が三日月です」

 これだとだいたい正しい答えになります。

上弦の月下弦の月

 もうひとつ厄介な問題に、

上弦の月ってどんな形?」

というのがあります。

 三日月の延長で言えば、左を向いたまま膨らんだ半月が「上弦の月」なのですが、これもなかなか定着しにくい話です。そもそも右半分の月が「上弦」というのが分かりにくい・・・。

 

 実は「上弦の月」「下弦の月」の由来には諸説あって、有力なもののひとつが、

太陰暦で、新月から十五夜の満月に向かっていく、ひと月の前半に見えるのが『上(半期の)弦の月』、満月から新月に向かう後半の月が『下(半期)弦の月』」

というものです。これだと「三日月が太ったのが『上弦の月』」ということで覚えやすくなります。

 

 またもう一つの有力な説は、

上弦の月が西に沈むとき、月の弧の部分が下になり、弦の部分が上になるので『上弦の月』という」

というもので、こちらの方がむしろ「上弦」をうまく説明しているような気もします。

 ところがそう言うと、

「でもそれだと昇ってくるときは弦が下、弧が上の『下弦の月』じゃないのか」

という疑問が当然浮かんできます。

 しかしこれはあまり問題にならないのです。「上弦の月」は昼の12時ごろに昇って来て、深夜12時ごろに沈む月なのです。だから昇ってくるところは普通は見ない、見てもあまり風情のいいものではないのです。

 「上弦の月」は以上の説明でいいのですが、「下弦の月」は厄介です。というのはこれは夜中の12時ごろ昇って来て昼の12時ごろ西に沈む月で、沈むときに弦を下にしているのはいいのですが、真昼間のことですから普通は見たりしません。

 もしかしたら深夜に「下弦の月」が昇ってくるのを見る人はいるかもしれませんが、このとき弦は上に(弧は下に)あるので、どうしても「下弦の月」といった印象はなくなります。

 しかし多くの人は深夜、眠って過ごしますから、「下弦の月」を話題にすることはめったにないと思います。それでいいのです。

【旅の宿、月明かりの羊小屋】

 大昔(と、言っても私にとっては“ちょっと以前”ですが、なにしろ46年も前なのでそういう言い方にしておきます)、吉田拓郎という歌手がいて「旅の宿」という曲をヒットさせました。その歌詞に、

上弦の月だったっけ、久しぶりだね。月見るなんて」

というのがありますが、夜中の12時ごろ沈む月なのでこういう風流な話になるのでしょうね。12時に昇ってくる「下弦の月」では無理でしょう。それが見られるのは、4次会までやってべろべろになった酔っ払いだけです(べろべろの酔っ払いは月なんか見ないと思いますが)。

 ところで表紙に飾ったミレーの「月明かりの羊小屋」。画面にあるのはどう見ても「下弦の月」です。描かれたのはそれが昇ってくる12時過ぎの風景だということです。そう思ってこの絵を見直すと、改めて別の感慨も浮かんできます。

*なお、ミレーの絵を見て「羊は立って眠るのか?」という疑問を持った方もおられるかもしれません。

 調べたら、羊のことは分からなかったのですが、馬は横になって寝るそうです。ただし15分ほどの短い睡眠で、それ繰り返し、総計3時間くらい眠るようなのです。睡眠時間がとても短い。

 猛獣に襲われやすい草食動物というのはそういうもののようで、ゾウやウシ、羊も同じだと言われています。

 ですからミレーの絵は極めて正確に現実を映したものなのです。、