「日馬富士、相撲やめるってよ」〜横綱の品格・教師に求められる高い道徳性

 日馬富士が引退を表明しました。

 初場所番付編成会議が昨日の午前9時から予定されていたので、その前にはっきりさせる必要があったのです。実際もう事態を盛り返せる状況はなく、早めの引退表明は賢明であったと言えるでしょう。

 私は別に相撲ファンではありませんし特に日馬富士に肩入れしているということもありません。ただしこの一事をもって引退に追い込まれるのはあまりに惜しい、2〜3場所の出場停止程度でもう一度チャンスをやってもよかったと残念に思っているのです。

 勧告が出そうになって自ら引退というのは、悪行の限りを尽くした(と言っては言い過ぎかもしれませんが)朝青竜と同じです。それでいいのかという思いがあります。

 同じ暴力と言っても2007年に起こった「時津風部屋力士暴行死事件」のような組織的、意図的なリンチでもありません。

 いわば(こう言っては語弊があるかもしれませんが)、同じモンゴルからやってきた者同士の、酒を飲んだ上での兄弟喧嘩みたいなものです。

 もちろん日本の殺人事件の半数以上は家族間で起こっているのですから、兄弟喧嘩とはいえ放置できない場合もあります。しかしそれは内々で十分に話し合ってから、「それでも兄貴は許せん」というなら警察の手を借りればいいのであって、“殴られた直後にプイッと出て行った弟が、病院に寄って診断書をもらってその足で警察署”ではまとまるものもまとまりません。家が持ちません。

 貴ノ岩のけがは医療用ステープラーで10か所とめるというもので、最初報じられた「右中頭蓋底骨折、髄液漏」に比べたら問題にならないくらい軽いものですが、カラオケの大型リモコンで殴られたものですから“なかったこと”にもできない大きさです。ですから被害届が出たことについては文句ないのですが、果たして「引退」にまで持ち込む事案だったのか――。

横綱の品格・教師に求められる高い道徳性】

 相撲ファンでもなければ日馬富士ファンでもない私がなぜこの問題にこだわるかというと、似たような事件が学校にも山ほどあるからです。

 長い教員生活の中で、これまで多くの先生方が教職を去っていくの見てきました。

 定年退職はもちろん、結婚や出産を機に辞められる方、継ぐべき家業に戻らざるを得ない人、他にやりたい仕事がある人、病気で続けられなくなる人、殉職と言っていいような亡くなり方をする人、そして不祥事によって免職になる人――。

 後の方の三つについてはそれぞれ言いたいことがあるのですが、今回の事件に被せると「不祥事によって懲戒免職になる人」の中に、日馬富士同様、“免職にまで追い込む必要があるのか”と思わせる事例がいくつもあるのです。

 例えば、前の晩のアルコールが残って引っかかる酒気帯び運転。残り方にもよりますが一律に懲戒免職というのは重過ぎる懲罰でした。

 教師の懲戒免職というのは退職金等々はもちろん、教員免許までなくなってしまうのです。

 懲戒解雇となったプログラマーは別の組織でプログラマーになれますし、違法行為を行った医師も弁護士も免許や資格はなくなりません(専門分野での違法行為は別)。

 しかし懲戒免職となった教員は二度と教壇には立てないのです。免許を利用した職業(例えば予備校講師)にもつけません。日馬富士と同じく“引退”です。

 

 あるいは「体罰」も教師が学校を去る契機となることがあります。

 一口に「体罰」と言っても児童生徒の何らかの“罪”に対して、“罰”としての暴力や苦役を強いる教師は稀です。処分される“体罰教師”の多くは、実際には頭に血が上って暴力をふるっただけで、刑事上も「暴行罪」もしくは「傷害罪」となります。日馬富士と同じです。

 しかし暴力に至る事情は様々で、中には生徒の激しい挑発によって怒りを誘発された教師もいます。友だちを危険な目に合わせてるのを見て、瞬間的に手が出て加減のできなかった人もいます。

 さすがに最近は懲戒免職になるほどの体罰は少なくなりましたが、教育委員会が免職にしなくてもそれと同等の私刑がネットやマスコミによって行われることがあります。

 教室の新聞を破った男子児童が“他の児童に命令された”と言い訳したので、「やれと言われたら何でもやるのか?飛び降りろと言われたらやるのか?やらないだろ、やったらいけない事をやれと言われてもやらないんだ」と叱責した教師は、「窓から飛び降りろ」と命令したことになります。

 絶対に手が出せないとなると生徒の方はやりたい放題で、教室内で教師を殴ったり蹴ったりする様子がSNSで流されたりします。

横綱には高い品格が求められる――」

 それはそうですが相撲協会は朝青竜の時はかなり我慢できました。

 さらにその昔の話をすると、品格のカケラも幕内優勝の経験もない相撲取りを躊躇なく横綱にしてしまったこともありました。その人はやがて親方と喧嘩して、仲裁に入った女将さんを突き飛ばしてケガをさせ、そのままどこかに出奔して角界から消えしまいました。

 最近で言えば白鵬は(私の一番好きなお相撲さんですが)今場所も含めて、時々妙なことを言ったりやったりしますが、品格を理由に懲戒の対象となったことはありません。

 「横綱の品格」は揺れ動くもののようです。

 今年の秋場所、一人横綱として大逆転で優勝を飾り重責を守った日馬富士は、たった一度の落ち度で「品格に欠ける横綱」として角界から去っていきます。

 一方、「その職業的特性から、高い道徳性が求められる」教師の方は、“高い道徳性”のために処分されることはあっても、それにふさわしい尊敬を勝ち取ることはありません。年中小さくなって職員室片隅で、受話器を手に深々と頭を下げ、

「申し訳ありません。今週中に何とか、給食費の方を払っていただけませんでしょうか」

などと頼み込んでいます。

 何とも割り切れない話です。