カイト・カフェ

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「桃太郎の謎」〜秋の読書週間に寄せて

 秋の長雨が今年はやたら長く、ほとんど外に出られません。学校では休み時間に子どもたちが退屈していることでしょうね、図書館にでも行ってくれるといいのですが。

 それとは関係なく、夜が長くなるこの時期、秋の読書週間を設ける学校も少なくありません。しかし子どもに本を読ませることはいつの時代もなかなか大変で、大人のさまざまな工夫が必要です。

 私の場合、中学校から教員を始めたこともあって小学生向きの図書については知識が薄く、本を紹介しなければならないときはとても困りました。きちんと勉強すればいいのですが、日々の忙しさに取り紛れ、児童書をしっかり読むということがなかなかできなかったのです。そこで思いついたのが昔ながらの童話です。
 考えてみると「さるかに合戦」だとか「浦島太郎」、誰かに語り聞かされることはあっても本で読むということはなかなかなさそうです。だからかえって知らない。
 「金太郎」なんてただの「クマと相撲をとったスーパーベビー」です。
 あの子、何だったのだろう?

 ということでよく知られた童話を中心に、あれこれ考えるのが私流のやり方となりました。
 そうやってみるとなかなか面白いものです。

 

 【桃太郎の謎】

 読書週間ですから、今日は本の紹介をしたいと思います。選んできたのは「桃太郎」です。

「え?、ちょっと待って! 桃太郎だなんて、そんなの保育園や赤ちゃんのときに終わっているよ」
 そんなふうに思った人はいない? いるでしょ?

 でも「桃太郎」の話って難しいよね。ちっちゃなころ、「桃太郎」を聞いたり読んだりしながら、すごく悩んだ人って、いっぱいいるじゃない。

 え? いない? ・・・いないんだ。
 変だな。私は昔から分からないことだらけで、いつも困ってしまっていたのに。

 たとえば、最初に桃を切ったとき、なぜおばあさんは桃太郎を傷つけないようにうまく切れたのかとか・・・。
 そうでしょ? あんな大きな桃を切るわけだから、普通は「エイッ、ヤア」と一気に包丁を入れてバキッとやりそうなものを「元気な赤ん坊が出てきました」と言うのだから、赤ちゃんを傷つけずに桃を切ったわけだよね。どうしてそんなにうまく切れたのかな、最初から赤ん坊がいるって知っていたのかな?
 ねえ、ほんとうに君たちはそんなふうに考えたことはないのかい?

 あるいは、桃太郎は大きくなって鬼が島へ行くわけだけど、どうして山の中の桃太郎が鬼が島のことを知ったのだろう、どうして鬼退治に行く気になったのだろう、不思議だなって考えないの?

 まだまだ不思議はあるよ。
 桃太郎はおばあさんにきび団子を作ってもらって、背中に「日本一」という旗を立てて出かけるわけだ。だけど鬼退治も何もしてないのに、なぜ最初から「日本一」なんだろう。恥ずかしくなかったのかな。
 自分から「日本一」だと言い出したとしたら、これはほんとにすごいでしょ。普通はそんなふうに言わないよね。なんかバカみたいでしょ?

 バカみたいといえばお供について行ったイヌ・サル・キジ、この三匹がきび団子ひとつに命をかけたってこと、これが「桃太郎」の最大の謎だよね。
 いくらお腹が空いていたって、団子なんかに命をかけちゃいけない、そんなことをするのはとんでもない大馬鹿者、そう言うことにはならないだろうか。

 そして最後のなぞ。
 「鬼が島」というからには鬼がウジャウジャいたはずなのに、桃太郎と3匹で全部やっつけてしまった。戦いに出た「ひとりと3匹」はこれが始めての戦いなのに、なぜあんなに強かったのだろう。普通、そんなことありえないじゃないですか。どうだろう。

 さて、ちょっと考えただけで出てきた五つの謎、これを全部黒板に書いてみるね。

「なぜ、おばあさんが桃を切ったとき、桃太郎はけがをしなかったのだろう」
「桃太郎は、どんなふうにして、鬼が島のことを知ったのだろう」

「なぜ、何もしないうちから『日本一』などという旗を立てたのだろう」
「なぜ三匹はきび団子ひとつで命をかけたのだろう」
「なぜ桃太郎たちはあんなに強かったのだろう」

 

【調べてみよう】

 ここに一冊の本があります。この学校の図書館にあった本で『ももの子たろう』と書いありますが、もちろん桃太郎の話です。
 実はこれを読むと、この五つの謎の答えがみんな書いてあるんだ。

 まず一番「なぜ、おばあさんが桃を切ったとき、桃太郎はけがをしなかったのだろう」
 この本の6ページに書いてあるから読むよ。

「じいさま じいさま。きょう 川で せんたくしてたら、おっきな ももこが ながれてきたで とっておいた。はやく あがって たべてござい」 ばあさまが いうと、
「おう おう、それぁ ありがたい。」

と、じいさまも おおよろこびで いろりばたへ あがった。
ふたりが ももを きろうとしたら、これぁ これぁ、これぁ、ほうちょうを あてるか あてないうちに、ももが じゃくっとわれて、なかから おとこの ぼっこ(あかんぼう) が、ほほぎゃあ ほほぎゃあと うまれたそうな。
「いややあ。こら、かわいい おとこぼっこだ、たいへんじゃあ。」

 ほらね、分かったでしょ。
 おばあさんは実は桃なんか切っていなかったんだ。包丁を近づけたところで桃太郎の方で飛び出してきたんだね。
 やっぱり調べてみなくちゃ分からない。

 2番目の「桃太郎は、どんなふうにして、鬼が島のことを知ったのだろう」
 これについても11ページに答えがある。見てみよう。

 ある日のこと ももの子たろうが おもてであそんでおると、みたこともない とんびが 一わ わをかいて、
  ももから うまれた

  ももの子たろうこ やい
  七つ やまこえ 七つ たにこえ
  おにがしまさ いけっちゃ
  おにたいじに いけっちゃ
  ひんごろごろ ひんごろ
 と なくのだそうな。

 分かったでしょ。桃太郎が自分で考えて鬼が島に行くことを決めたわけじゃない。トンビが行けといったから行くことに決めたんだ。
 トンビは神様のお使いだったのかもしれないね。

 3番目のなぞ、「なぜ、何もしないうちから『日本一』などという旗を立てたのだろう」
 実はね、この本を読んでいて私はびっくりした。
 見てみるよ。次のページだ。

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 ホラ。
 実は「日本一」なんて書いてない。
 よく見ると――何て書いてあるかな?
「ももの子たろう」だ。
 ただ、名前が書いてあるだけなんだね。まだ何もしてないし、有名でもないから、まず名前を書いて出かけた、そういうことかな?

 もちろん、この旗に「日本一」と書いてある本もある。何かの理由があって「ももの子たろう」が「日本一」に変わってしまったわけだけど、これについては後で話そう。
 その前に、桃太郎の最大のなぞ、
「なぜ三匹はきび団子ひとつで命をかけたのだろう」

 最初の動物、イヌが登場するころを読んでみよう。
 いくがいくが むらはずれまで いくと、わんわんと いって いぬが きた。
「ももの子たろうさん、ももの子たろうさん。

 かたな さして、はた もって、どこ いきなさる。」
「おいら、おにがしまさ おにたいじに。」
「おこしの ものは なんでござる。」

 ここからが大切だ。
「これ、にっぼん一の きびだんご。たべて すすめば百人りき。」
「ひとつ ください、おともする。」

 そこで、いぬは きびだんごをもらって たべて、おともになったそうな。

 分かったかい。このきび団子はただの団子ではない。ひとつ食べれば「百人力」つまり百人の大人と同じくらいの力が出る特別な団子なんだ。だからイヌは「ひとつください、おともする」というのです。
 百倍にパワーアップする団子がもらえるなら桃太郎についていってもいい、と思ったわけさ。

 桃太郎はサルにもキジにも同じことを言います。
「これ、日本一のきび団子、食べて進めば百人力」
 これで全部のなぞが解決だ。

「なぜ桃太郎たちはあんなに強かったのだろう」
 百人力の動物が3匹と、もちろんきび団子を食べているはずの百人力の桃太郎。合わせて4百人力の「桃太郎と3匹」が乗り込むわけだから、鬼たちが勝てるわけがない。

 それについては本にこんなふうに書いてある。(26ページ)
 それでもなんでも、こっちは みんなにっぼん一の きびだんごを たぺて、百人りきに なっておる。
 なんの おにの たいしょうめと、ももの子たろうが かたなを ぬいて、

 「ええい、やあっ。」
 と やったらば、かなぼうは ぺしゃり おれてしまった。
 おまけに、いぬが かみつく、さるが ひっかく、きじは ぼっきぼっきと 目んたまをつっついたので、おにの たいしょうは もう にげることもできん。
 とうとう てをついて、ぽろんぽろと なみだを こぼして、
「あや、ももの子たろうさま。いのちばかりは ごかんぺん ごかんべん。」
と あやまったそうな。

 さて、気がついたかい。ここでも「日本一のきび団子」って言っているでしょ。
 もしかしたら別の桃太郎の本に出ている「日本一」という旗、あれは桃太郎自身が日本一、という意味ではなくて、持っているきび団子が日本一っていう宣伝なのかもしれないね。
 よくお店やガソリンスタンドにある旗と、形が同じじゃないか。実はあの旗、今でも「桃太郎旗」っていうんだ。桃太郎は鬼ヶ島に行くまでの間、あんなふうに「日本一」を背負って団子を売りながら旅をしたのかもしれない。
 もちろんそんなことは本には書いてないけど。

 

【ほかの童話も調べてみよう】

 こんなふうに考えながら見ていくと、昔、読んだはずの桃太郎にもいろいろな発見がある。そして桃太郎だけじゃなくて、ほかの昔話でも謎はあるのかもしれない。

 たとえば、浦島太郎はあれほど開けてはいけないと言われた玉手箱をなぜ開けてしまったのかとか、「あっという間におじいさん」になってしまったのに、なぜメデタシ、メデタシなんだろうとか。
 そう言えばそもそも、乙姫様はなぜ開けることもできない玉手箱を太郎にプレゼントしたのだろうかとか。

 「はなさかじいさん」のイヌはどこから来たのか。もともとの飼い犬が突然「宝物発見の能力」を高めておじいさんに知らせたのか、とか。
 謎はいくらでもある。

 そんなことも、調べてみるといいかもしれないね。
 さあこれから図書館に行ってみんなの不思議を調べてみよう。

 (参考)

「ももの子たろう」(ポプラ社 1967)

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*ブログネタに困って、昔書いた文に手を加えて再掲しました(「童話2000」