「見てきたもの」〜「箱根ラリック美術館」と「彫刻の森美術館」

 箱根へ行ってきました。

 一日目は箱根ラリック美術館の見学、それから箱根湯本の温泉宿に一泊して、二日目は彫刻の森美術館という簡単な日程です。 

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箱根ラリック美術館

 箱根ラリック美術館というのは、アール・ヌーヴォーアール・デコの時代に生きたフランス人のガラス工芸家ルネ・ラリックの作品を展示する美術館です。

 アール・ヌーボーとかアール・デコというのは19世紀末から20世紀初頭にフランスやアメリカを中心に流行した美術の様式で、鉄やガラスといった当時の新素材を利用して工芸・建築・グラフィックデザインなどに展開した一大芸術運動でした。

 私はこの方面に詳しくないのですが、アール・ヌーボーといったら乳白色の厚手のガラス地に濃い色で植物を描いた花瓶とか、あるいはステンドガラスのようなランプシェード、そして先日、国立西洋美術館に来ていたミュシャのポスターなどが思い浮かびます。総じてブルジョア世界の高級生活文化といった感じのもので、豪華で装飾に過ぎる感じがしないわけでもありません。

 それに比べたらアール・デコの方は多少庶民的で(あくまでも比較上)、三角形や四角形の緻密に組み合わされたカットグラスとか幾何学模様の細かい門扉や浴室の壁、あるいはモダン建築といったものが思い浮かびます。

 19世紀末から20世紀初頭の、期待と不安、栄華と退廃の入り混じった不思議な芸術で、日本で言えば江戸川乱歩の小説に出てくる帝都大東京の印象、外国で言えばシャーロックホームズやエルキュール・ポアロの闊歩する旧市街、H・G・ウェルズ原作の無声映画月世界旅行」に熱狂する人々、そうした雰囲気の世界です。

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 ラリック美術館の一番の呼び物はラリック自身が装飾を手掛けたオリエント急行の豪華サロンカー、その実車が展示されていることです。中に入って豪華な座席にゆったりと座り、ポアロの解いた謎の事件(「オリエント急行殺人事件」)やジェームズ・ボンドと殺し屋との格闘(「ロシアより愛をこめて」)などのことを思ってひとり悦に入っていたりしました(あ、家族も一緒ですが)。

 アール・ヌーボーアール・デコも私はさっぱり好きではないのです。しかしどんな場合も行って損な美術館、美術展というものはそうはありません。それなりに楽しむ方法はいくらでもあります。
 客車のトイレを見て、
「あら、当時からもう洋式だったのね」
と言った家人の言葉に、思わず吹き出しそうになる自分を必死に取り繕ったというようなことも含めて、面白いことはいくらでも起きるのです。

 

彫刻の森美術館】

「ラリック美術館」は初めてでしたが「彫刻の森美術館」は二度目です。

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 ただし彫刻も工芸同様苦手な世界で、知っている彫刻家と言ったら思いっきり古いところでミケランジェロ、ずっと手前にきてロダン、なぜか知っているマイヨールとジャコメッティ、この箱根で覚えたヘンリー・ムーア。
 日本人だと美術の教科書にあった高村光雲・光太郎親子、荻原守衛、中原悌二郎、そしてどこかで出会って気に入って、なぜか覚えている朝倉響子、それで知識払底です。
 じゃあまるっきりダメかと言うと案外そうでもない。

 絵画と違って彫刻や工芸など立体芸術は360度ぐるっと回ってみたり上から覗いてみたりするものなので、写真や図版では満足できず、どうしても本物をみないと始まりません。
 それだけに敷居が高いというか、取っ掛かりが悪いのですが、レプリカでもいい、小さなやつでいい、そばに置きたい、机に乗せて観賞したいと思うような作品は少なからずあります。

 彫刻の森美術館について言えば、ロダン「バルザック」朝倉響子「アリサ」といった作品のことです。
 「16本の回転する曲がった棒」なんて小型のものを机の上でぐるぐる動かしたらどんなに楽しいだろう、そんなふうにも思ったりします。
 ただしレプリカだって結構な値段がしますので、いつも迷いながら、しかし諦めて帰ってきます。

 今回の彫刻の森美術館、着いた時にはすでにかなりの雨が降っていたのですが、野外展示場を進むにしたがって台風21号がらみの風雨がどんどん激しくなってきて、ほんとうに大変でした。そんな中、野外彫刻の前で作業をしている人が何人もいて、例えばニキ・ド・サン・ファールという作家の「ミス・ブラック・パワー」では、巨大なハンドバッグをロープで地面の金属棒に固定したりしていました。台風対策です。
 そんな光景はめったに見られないのでさっそく写真にしようと思ったのですが、傘が風にあおられて支えているだけでも難しく、残念ながら撮ることができませんでした。

 そんなことも含め、いろいろあった二日間でした。