誕生日が近いというので、妻が私を靴屋に連れて行ってくれました。スーツのための革靴はいいものを持っているので、ジーパンにも合うような普段履きを買うつもりで出かけました。
靴屋に着くなり、私は棚の上に光り輝く、私好みのバックスキンの茶色のシューズを見つけます。値段を見るとそれこそ目玉が飛び出るほど高価なのですが、妻が「いいから、いいから」と言うので甘えました。
さらにその上、「もう一足、運動靴はどう?」と妻が言うので運動靴の棚を見ると、そこにも光り輝く私好みのウォーキング・シューズが――。こちらもいい値段でしたが迷わず買うことに決めました。
その間、約5分。
すごいでしょ?
(買った運動靴。バックスキンの方は注文生産なので後日引き渡し)
本来決断力のない私が、なぜそんなに早く決めることができたかと言うと、そもそも選ぶ対象がなかったからです。
その店にはカジュアル・シューズと言ってよさそうなものははせいぜいが10足。運動靴に至っては5・6足しかありません。似たようなものは並べてないのでそれぞれ個性的、印象も機能もずいぶん違うのでひとつ選ぶと他は全部「気に入らない」枠に分類できます。とても分かりやすい選択でした。
値段についても大して選択肢があるわけではないので、軽く清水の舞台から飛び降りることができます。後悔なんてあとですればいい――。
【アリス】
選択肢と言えば私は昔、「アリス」という童話を書いたことがあります。短いものなのでここにも載せます。
アリス
ある日アリスは一人の女神に出会いました。
女神はアリスに向かって、こう言いました。
『アリスよ、あなたの願いを一つだけかなえてあげましょう』
そこでアリスは答えました。
『ドレスがほしいの』
女神はさらに言います。
『それではここに100枚のドレスがあります。どれでも好きなものを一つお取りなさい』
アリスはすっかり喜んでさっそくドレスを選び始めましたが、何時間かかっても選ぶことができず、すっかり困ってしまいました。
本当に困り疲れ果てたところに一匹の悪魔が訪れ、
「アリス、お前の悩みは分かってる。オレが97枚奪ってやろう。この97枚はつまらないドレスだ。お前は残りの3枚の中から一つだけ選べばいい」
そう言います。
アリスは程なく1枚のドレスを選び終わると、小さくこう呟いたのです。
『悪魔って本当にステキだわ』
この童話の言わんとするところは、「100枚のドレスから1枚を選ぶ選択は、結局のところ99枚を諦めることでしかない」ということです。3枚から1枚を選ぶなら、諦めるのは2枚で済みます。
私は若いころ自分のことを天才だと思っていましたから(ただし何の天才かは分からない)進学や就職の際には大変苦労しました。早い時期に凡才と知って自分にできそうな2〜3の職業からひとつを選べばよかったものを、天才だと誤解したために諦めなければならない可能性が山ほどあるように感じたのです。自由というのはシンドイものです。
「アリス」の原型はそのころ考えました。
しかし選択肢は少なければ少ないほど幸せ、というわけには行かないのももちろんです。
【投票日が近くなって】
私が現在悩んでいるのは、選挙区選挙で誰に投票しようかという問題です。
5人にいる立候補者のうち、3人は圏外ですからここに入れれば死票です。訴える政策にも賛成できません。
抜きんでた二人は紙一重の接戦を展開していて、どちらが勝つのか予断を許さないのですあが、とりあえずその前に、とにかく二人とも人格に問題がある、と 私は感じているのです。
どちらにも入れたくない。
最悪の場合は白票とも思っていますが、今のところは思案中です。
それにしても小選挙区制――責任ある野党を育て、二大政党制という安定した形態を整えると説明されますが、共和党か民主党か、労働党か保守党か、といった選択肢がふたつしかない制度の、どこがいいのか私にはさっぱりわかりません。
昔の中選挙区制みたいに、支持政党は別にあるのに、反対党に一票入れ少しお灸を据えるといった匙加減ができませんから、小選挙区制は本当に悩ましいいところです。
白か黒か、右か左かといった二者択一は、もともと日本人には不向きかとも思うのですがどうでしょう?