カイト・カフェ

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「その人の背景がない」~ネット上のやり取りで傷つかないために」③

 2ちゃんねるのような自分も相手も匿名の場で叩かれるのと、LINEグループのように発言者が誰かわかるような場で叩かれるのとでは意味が違います。
 他のSNSについて言えば、自分のアカウントが本名かどうか、参加者の多くが匿名か実名かによって様相はだいぶ変わります。

 私が受けた研修の場合、主催者の不手際で「調べればわかる」という状態になっていましたが一応、相手も自分も匿名という状況下でのやり取りでした。ですから最初に、「自分も含めて参加者の大部分が匿名という状況」での、気持ちの揺れについて考えます。
 するとすぐに浮かんでくるのが「その人の背景がない」という事情です。
 その人が分からない。

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【ヘビの日常、幽霊の家庭生活】

「我々が本能的にヘビを恐れるのは、手足のない細長い生き物にその日常生活を思い浮かべることができないからだ」
 そんな話を聞いたことがあります。確かにあたっているような気もします。

 ディズニーがネズミやクマではなく、ヘビを主人公にした子ども向けアニメをつくっていたら、世の中のヘビに対する雰囲気は随分変わっていたでしょう。
 しかしどんなに有能な漫画家でも、擬人化したヘビの母親が台所に立った瞬間、彼女にどう調理をさせたらよいのか困ってしまうに違いありません。
 幽霊が怖いのも同じで、彼(または彼女)に日常生活があって休日は一家団欒を楽しんでいるといった生活実態が分かってしまったら、そんなに恐ろしくはなさそうです。

 ネット社会の、顔の見えない相手とのやり取りが怖ろしいひとつの理由はそこにあります。
「オマエ、バカじゃネ?」
と書き込まれたとき、その重みは底なしなのです。

【よく知った現実なら、どうってことのない出来事】

 これがよく知った相手なら違います。同じセリフでも幼馴染のA君なら軽いセリフ、ほとんど合いの手のようなものです。いつも嫌味で胡散臭いBだったら「ああ、アイツらしいや」と放って置けます。

 もちろん「あの人がこういう言い方をするのか?」と驚くような場合もあります。これは用心しなくてはなりません。そこで私たちはそこで遡って自分の言動を確認したり、彼に何かあったのではないかと心配して調査に入ったりします。親しい人に取材して回るといったことです。たいていはそれで原因が分かります。

 つまりいずれの場合であっても相手が分かっていれば、対処のしかたはいくらでもあるのです。ところが顔の見えない相手、背景の見えない相手だとそういう訳にはいかない。「オマエ、バカじゃネ?」が、自分をどこに導いていくかまったく分からないのです。
 

【ヘビや幽霊とどうつき合うか――たいていのヘビや幽霊は無害】

 ただし「顔が見えないからいい」、ということもあります。
 互いに匿名なら、こちらもまた、向こうには見えていないからです。
 見えないものどうしである限り、どんなに人間でもバーチャルの枠を越えてこちらまで来ることは稀です。

 アップした写真や文章から個人が特定され、居場所もばれて――といった話もありますが、ほとんどはアイドル活動をしている女の子や、全国ニュースで評判になったいじめ事件の加害者と目される男の子といった場合で、普通はそこまでほじくられたりしません。
 そんなことを心配するくらいなら交通事故や不慮の転落事故などに備えた方がいいようなものです。

 身元がばれてストーキングされてると感じたら警察に相談すればいい、それ以前だったら放って置いても大したことはありません。
 

【敬して遠ざける】

 しかしもっと根本的な解決の手段があります。
 そもそもそういうものが苦手な人は、ヘビや幽霊の出そうなところに近づかなければいいのです。あるいは庭を整理してヘビが入ってきたり幽霊が迷い込みそうな茂みをなくし、部屋を整頓して怪しい場所をつくらないようにするのです。
 つまり匿名掲示板みたいなところへは近づかず、フェイスブックやらインスタグラムやらは非公開にしてしまうのです。友だち申請やフォローリクエストを無視するなんてこと、この世界ではありふれたことでいちいち知らない人まで承認する必要はありません。

 そもそも「打たれ弱い」あなたが、ネットの海に不用意に入るからいけないので、自分の身の丈にあったプール(それがたとえビニール・プールであっても)で、訓練を積んでから改めて外に出て行けばいいのです。

匿名の世界で起こったことの現実的な意味は薄い。
繊細な人は訓練が終わるまでその世界に入らない。

(この稿、続く)