カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「本業が休みなので本業に十分取り組めるという不思議」〜「海の日」の話

 皆さま、「海の日」を含む三連休、いかがでしたか?
 私はサンデー毎日なのでどうということはないのですが、まだフルタイムで働いている妻が三日連続で在宅し、
タンスにゴン!女房、元気で留守がいい」
(妻が家でウロウロしているので避けて歩いていたらタンスにぶつかってしまった)
の感を深くしています。

――というのはヨタ話ですから信じなくていいのですが(ホントの成り立ちについてはWeblio辞書、引き続きYoutubeでご確認ください)、平成8年(1996)年から施行された「海の日」について、私は特別の思い出を持っていますので、そのことについてお話しします。
 それは学校の先生たちにとって、涙が出るほどうれしいものだったのです。

f:id:kite-cafe:20210102184925j:plain

画面中央は婿のエージュに抱かれた孫のハーヴです(見えない)

 もっとも最初に「海の日」が制定されたときは7月20日という設定が微妙で、学校ではこれをどう扱ったらいいのか困惑しました。というのも、もともと夏休みの初日が22~23日あたりでしたので、20日に祝日が入ると1日休んで1日登校し、その翌日には終業式といった変な感じになってしまうからです。
 さりとて20日を夏休み初日に繰り込んでしまうと8月31日まで総計で43日という、あまりにも長い長期休業になってしまいます。
 別に40日であっても50日であってもいいじゃないかと思われる人もいるかもしれませんが、そうはいきません。実は長い休みはお母さんたちにめっぽう評判が悪く、学校にとってもろくなことがないからです。

【親も学校も子どもの長すぎる長期休業が嫌い】

 無理もありません。毎日ギリギリでお勤めしておられる家庭では、朝の忙しい時間に昼食の準備をして出かけるのは容易ではないからです。特に夏のことですから冷蔵庫に入れられるものにも制限があります。温め直しに子どもだけで火を使わせるのも心配です。

 さらに問題なのは日中の子どもをどうするかということです。
 小学校の低学年なら学童保育に押し込んでしまえばいいのですが(それとて弁当を作るという大問題=「他のお母さんと比べられる」が立ちはだかります)、高学年以上、特に中学生ともなると部活以外行くところがなく、日中の大半は野放し状態なのです。
 もちろんそれできちんとできる子も少なくないのですが、そうでない一部については親も学校も、社会全体も不安です(社会全体は大げさか?)。
 長期休業は短ければ短いほどありがたい、そう考える親は少なくはありません。

 一方、夏休みが長くなりすぎることは学校にとっても深刻な問題です。授業時数が足りなくなる可能性があるからです。
 細かな説明は欄外に回します()が、学校の授業日数は200日以上ないと指導要領の規定が満たせない仕組みになっているので、40日を越える夏休みはかなり困難なのです。

 そうしたあれこれがあって結局、「海の日」はそのまま単独の祝日としておいておき、21日から登校し、22日あるいは23日ごろ終業式を行って夏休みに突入するというのが大勢となりました。

【これがめっぽう評判が良かった】

 ところがこれが、めっぽう先生たちから評判が良かったのです。
 なぜか?
 通知票が十分に書けるからです。

 通知票についてはこのブログでも再三あつかっていますが、どれほど大変かという話は「通知票の話」~書くときの心得 (2012/7/24)に、どれほど重要かという話は「通知票の季節ですが・・・」(2007.07.17)にありますので改めてお読みください。

 いずれにしても通知票は学校が作成しなければならない公文書でもないのに、校内でつくる最も重要な文書で、それなりに教員の使命感を刺激する存在です。

 本ブログでも何度も書いているようにそれは、
①多くの場合その子の手元に一生残るものであり、
②担任のがその子をどう見ていたかを示す、動かぬ証拠であり、
③時にはその子の生き方そのものにも関わる、
ものだからです。
 ゆめゆめ疎かにあつかっていいものではありません。そのために大変な時間とエネルギーがかかり、だから遅れる――。特に一学期の場合、教科担任だけの関係だったりすると生徒がしっかりとつかめておらず、滅茶苦茶に神経をすり減らす作業になります。

 その神経質な作業のための時間が「海の日」のおかげで終業式の直前に、丸々一日確保されるわけですからほんとうにうれしかった――。
 実際には悩む時間が一日増えただけ、といったふうもありましたが、とにかくギリギリまで引っ張っても1日あるというのはけっこうな安心感だったのです。

 その「海の日」も2003年から7月第3週のハッピーマンデーに回され、「お得感」も何となくなくなってしまいました。しかしそれでも頼りになる1日です。
 
 以上、クソ暑い中でタオルのねじり鉢巻きをしながら必死で通知票を書いている妻の横で、時々「この表現、どう?」と相談されながら、あれこれ考えているうちに思い出したことです。

 それにしても、学校が休みだから学校の仕事が十分できると喜んでいる教師の姿、客観的に見ると気の毒でかつ滑稽とも言えます。
 いや、滑稽でかつ気の毒なのかな?
 いずれにしろ、世の中の人には理解できないでしょうね。
「学校の常識は、社会の非常識」と言いますから。

(*付記「夏休みが長くなると授業日数が足りなくなる仕組み」)
 簡単に言ってしまうと学校の授業日数は200日以上ないと指導要領の規定が満たせない仕組みになっていて、1年間に授業日数が200日、土日休業が104日ほど、祝日が平均で15日ほど、これで合わせて319日程度になります。これを365日から引いた46日が長期休業に振り向けられる日数となります。

 先ほど7月20日から8月31日まで休むと43日間の長期休業と書きましたが、その中には土日・祭日(山の日)が合わせて13日ほど含まれますから、実際に休みにするのは33日間となります。先ほど計算した長期休業に振り向けることのできる46日から33日を引いた13日は、これを年末年始休み・年度末休業に振り分けることができます。
 もちろんこちらも土日を間に挟んだり端にくっつけたりして全部で20日間ほどになりますが、冬休みを10日間ほどとると年度末休みも10日になってしまいます。これはきつい。
 前年度の終末処理、新年度準備、とてもではありませんがやり切れるものではありません。

 実は、学習指導要領に定められた標準授業時数というのはけっこう曲者で、かつては「基準なんだから多少は足りなくてもいい」という見方もありました。そのため自治体によっては大きく時数を下回る地域もあって、年間登校日数を比べると180日程度から210日以上と30日も開きがあったのです。

 学力問題が広まってからはこれが問題となり、2002年の学習指導要領以降は文科省より「標準時間は最低基準だ」という指導が再三入るようになって、授業日数も200日以上でほぼ定着しました。もともと十分な日数を確保していた都道府県はよかったのですが、地域によってはそのために夏休みがグンと減ったところもありました。