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「どんなウソでも世論を動かせば真実になる」~いじめ問題のポスト真実

 13日の月曜日、横浜市教育委員会の岡田教育長はいわゆる「原発避難いじめ」について、「金銭授受もいじめの一部として認識する」と述べて謝罪しました。

 この問題を巡っては、市教委の第三者委員会が昨年11月、金銭授受部分はいじめにあたらないと答申。岡田教育長も答申に沿い、市教委として金銭授受をいじめと認定することは難しいと議会で答弁していた。
 だが男子生徒側は、金銭授受は2014年5月の約1カ月間で約150万円にのぼり、いじめにあたると主張。市教委に多数の抗議が寄せられた。林文子市長も「子どもに寄り添った発言ではなかった」と謝罪した。
2017.02.13 朝日新聞デジタル 金銭授受も「いじめ」一転認定 原発避難、市教委が謝罪

 しかしこれは間違った対応だと私は思います。
 理由は二つあります

【事実は曲げられる】

 そのひとつは、そのそも「金銭授受はいじめと認定できない」という認識は岡田教育長個人あるいは教育委員会が出たものではなく、第三者委員会(横浜市いじめ問題専門委員会)の報告書として出されたものだからです。

 報告書の記述では、
 当外児童の聴取時に訴えていた内容では、加害を疑われる児童たちから「おごるよう言われた気持ち」になっていた。
 学校側からの報告書等では当該児童から加害を疑われている児童たちに自主的に“おごった”こととされているが、思春期前期に差し掛かりほかの児童たちとの相互関係の在り方に伴う不安定さに由来すると考察すると、どちらが真実でであろうかと認定することは難しい

とあります。それがのちに出て来る、
 おごりおごられ行為そのものについては「いじめ」と認定することはできない
の根拠です。
 つまり、
 被害者とされる児童は直接「おごれ」と言われたことはない、本人が「おごるよう言われた気持ち」になっていた、また学校側からの報告者等を見ると“加害を疑われる児童たち”も自主的におごってくれているものと思い込んでいた。したがって恐喝といった感じのいじめではないと言える。
 しかし当時の被害者の状況や成長段階を考えるとおごる行為の中にかつての“いじめ”の影響があることも十分に考えられる。
 つまり「“いじめ”だ」ということもできないが、「“いじめ”ではない」とすることもできない――それが報告書の言っていることです。
――もはやわからない。
 私にはよく理解できる内容です。客観的に考えてもそう思います。(*)

 ところが今回、岡田教育長は「金銭授受もいじめの一部として認識する」と述べて謝罪してしまったのです。つまり第三者委員会の答申を無視した――これは今後も第三者委員会の報告を無視ないしは一部改正できるという可能性を示したものです。それでいいのか?

 必要なら報告書が「“いじめ”ではない」と言っても“いじめ”と認定して構わない。逆に「“いじめ”だ」と認定しても「いじめはない」と突っぱねてよい――そうなると第三者委員会を設けることの意味が分からなくなります。

【市教委が人を裁く】

 岡田教育長の謝罪が間違っていると思う第二の理由は、証拠もないのに、そして十分な調査もしていないのに、10人余りのかつての同級生を、“小学生の分際で150万円を脅し取った犯人”と極めつけたからです。
(もちろん岡田教育長は「金銭授受もいじめの一部として認識する」と言っただけでその金額を150万円と認定したわけではありません。しかし世間にはそのように伝わっています)。

 また、そうなるとその10人の子どもたちの保護者は、子どもの豪遊に気づかない愚か者ということになります。しつけができないだけでなく、何をしているかも知らないバカなのです。
 狭い小学校区内のできごとです。すでに10人は特定され人々の噂になっていることでしょう。親としたら耐えがたい、放置できない状況です。

 私だったら――私がその保護者だったら、
 150万円の推定一人分である15万円を払ったうえで家を捨て、別の土地で暮らすことを考えるでしょう。いくらバカ息子とはいえ、悪い噂の中で成長させるのはかわいそうです(もちろん私もバカ親と思われたまま地域に生きるのは嫌です)。

 しかし150万円の話がウソ、ないしは誤解だったとしたらどうでしょう?
 私は私なりに懸命に調べ、間違いと信じるに至ったら名誉棄損で市教委あるいは「“いじめ”を訴えている生徒とその家族」を訴えるでしょう。それ以外に息子の冤罪を晴らす方法がないからです。

 岡田教育長がやったのはそういうことです。
“加害を疑われる児童”の親たちがこれからどうするか、注目していましょう。

ポスト真実

 世の中には客観的事実よりも大切なものがある、それがポスト真実の核心です。
 トランプ大統領の就任式に集まった観衆はオバマの180万人をはるかに上回る数でした。
 戦時中、人口20万人の南京では一か月半の間に30万人もの人々が虐殺され、朝鮮半島では同じ30万人の婦女子が日本軍によって拉致され慰安婦に仕立てられました。
 そして第三者委員会が何と言おうと横浜市では2年前、小学5年生が同級生にいじめられて150万円も奪われたのです。

 どんなことでも世論を動かせば真実になる――それが横浜「原発避難いじめ」問題の示唆するところです。

参考:横浜市 福島原発避難いじめ報告書(原文)

 *「おごり」行為によって使われた金額は学校の確認した8万円+αだと私は考えています。それだって異常な金額だと思いますが150万円はあまりにも非現実的だと思うのです。
 報告書によると、
 同年(平成26年:引用者注)5月ごろ、A(被害を訴えている子:引用者)は他の関係児童10人くらい(〇〇〇〇〇〇)と、当初は〇〇駅近く、後半は横浜駅近くや、みなとみらい遊園地東のゲームセンターでたびたび遊び、遊興費・食事代・交通費等をすべてAが負担した。Aによると、このようなことは10回くらいあり、1回につき5万円から10万円くらい使ったと言っており、そのお金は自宅にある親のお金を持ちだしていた」(〇〇は黒塗り部分)
となっています。
 その後の文を読むとその5月の末には不登校となって他の児童との関係は断たれ、翌6月からは金銭のやり取りに関する学校の指導が入っていますから、この「おごり」はわずか1ヵ月弱の間のことと考えられます。
 その間に10回くらいというのはすべての土日祭日を使って遊んでいたということになります。平成26年は憲法記念日が土曜日、緑の日が日曜日で、大型連休がまったく大型でなかったからです。家の用事もあったりする中で、ほんとうにそれだけ遊びに出られるものでしょうか? 
 そうでなくて週日も使って行ったと言っても三日に一度、凄まじい頻度で遊びまくった言えます。その間保護者の指導が一回も入らないというのも異常なことです。中学生ではなく、小学生なのですから。

 また報告書は「関係児童10人くらいと」と書いていますが、毎回10人が集まってゲームセンターに行ったというのは考えずらいところです。
10人と時間を調整するのは容易ではありませんし、それほどの大人数が押し寄せて札びらを切れば当然目立ちます。ゲームセンターだって警察や保護者とトラブルを起こしたくありませんから当然何等かの対応はとっているはずです。入れ替わりで10人が関係児童だったとしても、入れ代わり立ち代わりで実際の一回の人数はせいぜいが5〜6人でしょう。

 本人が「全部で10回くらい」「1回につき5万円から10万円」と言って総計で150万円にならないじゃないかという点は別にしても数人の小学生が5万円から10万円の札びらをバンバン切っていたわけです。その様子が目につかないはずがありません。
 一か月150万円はそれくらい異常な金額で、もしそれが事実だったと知ると平成26年6月の調査で出てこないはずはないと思うのです。せめて100万円分くらいは。