カイト・カフェ

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「アナログ賛歌」③〜黒板

 2015年3月の羽衣文具株式会社の廃業は、一部でとんでもない衝撃をもって受け取られました。私たちも使い慣れたあの羽衣チョークの会社です。

 私自身はチョークに対するこだわりがなかったのですが、一部の人々から「チョークのロールスロイス」とか呼ばれる羽衣チョークの人気は絶大で、ある予備校は廃業と聞いてトン単位で購入し、ある塾講師は「羽衣がなくなるなら」と退職を決め、アメリカの数学者たち200名が合わせて1トンの購入を申し込んだかと思うと、2001年に数学界の超難問「モジュラリティ定理」を完全証明した天才ブライアン・コンラッド教授は、15年分をもまとめ買いしたということです。

 これは当時のNHKクローズアップ現代」で技術の海外流失の問題(羽衣チョークの製造法と機械は韓国に渡った)として紹介されたものですが、そのとき私が注目したのは羽衣チョークの偉大さとともに、今も数学の世界は黒板とチョークだという事実です。コンラッド教授は15年先も黒板とチョークだと信じているのです。

 考えてみると大講堂の壁一面の二段黒板にとんでもない量の数式、というのは映画の場面でしばしば見るものです。
 学者は書きながら、幾度となく後ずさりして全体を眺め確認します。
 現段階でこれを電子黒板でやろうとしたら無理でしょう。ホワイトボードなら量的に可能ですが、目に苦しく、滑りやすい表面は長時間ものを書くのに向いていません。

 

【黒板の長所】

 黒板の優れた点は一も二にも目に優しく疲れないということです。チョークは適度に固く柔らかいので手も疲れません。
 板書計画をしっかり立てて行ってもいいしその場の思い付きでも書けるところが電子黒板とは決定的に違います。
 チョークと黒板消しの二つがあれば変幻自在です。
 磁石がつきますから資料を張るのにも適しています。

 それにあまり気づかれないことですが、物としても堅牢です。
 学校というところは様々に物体が飛び交い、人がぶつかり合うところです。電子黒板やホワイトボードの表面などすぐに傷がついてしまいます。その点、黒板なら20年にいっぺんくらい塗り替えるだけで済みます。
 そして話しながら書くペースは、人間の自然の営みとして、講義を聞く人たちの脳や心に遭いやすくなっています。

 黒板の良さについては以前にも書きましたので、ここはこれくらいにしておきましょう。(*)

【しかし黒板は辛い】

 チョークの粉で汚れるといった点もありますが、黒板の最大の欠点は、私のような悪筆の者にとっては死ぬほどつらい「自筆が曝される」という点です。こればかりはどうしようもありません。
 だったら字を練習しろという話になりますが、かつては「一日に書く文字の量が多すぎて気を遣っていられない」という事情があり、現在は「キーボードやスマホで文章を作る時間が長すぎて習った字を書く機会がない」といった事情でなかなか練習する気に慣れません。
 それに私の場合いまさら学んでも生かす機会がなさそうです。

【これから教員を目指す皆様へ】

 大学における教職課程が昔に比べるととんでもなく充実していることは承知しています。しかし「板書(黒板の書き方)」の授業などというのはあるでしょうか?ついでに「学校イラストA」などといった科目はあるのかしら?

 おそらく皆さんが教職につき、40年近くを働いて定年退職になるときも黒板はあるはずです。
 機会があるなら黒板にチョークで書く文字と、模造紙にマジック・インキで書く文字の、双方の練習をしておくとよいでしょう。
 そして黒板の隅や学年だよりの端に小さく入れるイラストの勉強もしておくといいと思います。おそらくとんでもなく役立つ技能ということになります。

 大学もそういう講座を用意してくれるといいのですが・・・。 

(参考)kite-cafe.hatenablog.com

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