まだ事実が出そろっていないということもありますが、今回のバングラディシュのテロ事件、分からないことが多すぎます。
もちろん海外で起こった事件ということで割愛する部分が多くなるのも当然ですが、例えば日本人はすべてJICAの関係者だとして、9人もいたイタリア人は何だったのか、現場での容疑者たちの行動と警察の対応はとか、誰が考えても知りたくなる内容が出てこないのは不思議です。にわか仕立ての特派員では取材がままならないとしても、現地の報道を丁寧にまとめることぐらいはできそうなものです。
さらにコメンテーターとして出てくる“専門家”たちもあまりにもお粗末で、納得できないことも少なくありません。例えば――、
今回のバングラティシュのテロにおける最初の違和感は、容疑者の中に裕福な家庭で育ったインテリが数多くいたことです。それに対して“専門家”は簡単に「現代のテロリストはもともとそういうものです。アルカイダも創始者(ビンラディン)は大富豪でしたし現在の指導者(ザワヒリ)は神学者です」と答えるのみです。
そうじゃないだろうと私は思います。
巨大組織の指導者や統率者が億万長者だったり超のつくインテリだったりするのはよく分かるのです。そうでなくては組織運営はできません。しかし今回テロリストは末端も末端、失敗すれば単なる捨て石です。そんな仕事に金持ちのボンボンエリートが行ったのです。
生活にゆとりがあり、外国に留学できるような豊かな環境にあるまじめで素直で頭のいい子どもたちが、なぜ自らの命を捨て無辜の外国人を大量に殺す無慈悲な殺人者になったのか――本物の“専門家”だったらそこに答えるべきです。
一口にIS(イスラム国)と言いますがいろんな人がいます。共通点はスンニ派イスラム教徒過激派という程度で、きちんとした組織があるわけでもありません。
イラクにいるISの幹部はフセイン政権の成れの果てです。イラクはもともと2割しかいないスンニ派のフセインが、6割のシーア派と2割のクルドを押さえつけて横暴の限りを尽くした国です。そのフセイン政権が倒れてシーア派の時代が来たわけですから、元の官僚・軍人(スンニ派)はうかうかしていたら命もありません。仲間を守り、あわよくば第二のフセインを立ててもう一度この国を支配したい、それがイラクのISの動機です。
シリアも似たような状況にありました。ここは1割強しかいないアラウィー派(シーア派に近いと言われる)のアサド一族が支配する国で、「アラブの春」によってスンニ派(75%ほど)が政権を取れるかと思ったらもたついて内戦が始まり納まらなくなった、そういう国です。
シリア国内のスンニ派が「反政府勢力」を構築してアサド政権とやりあっているところにISが入り込んで三つ巴の戦いとなっています。そこにアメリカ・EU・ロシアなどが絡むので余計に難しいことになっています。
いずれにしろ今もイラク・シリアで戦っているISは前身であるISIS(イラク・シリアのイスラム国)と同じ気分で、とにかくこの地域に堅牢な地歩を築いてそれが守られればいい。非常に強い危機感と被害者意識を持った、むしろ防衛的なグループです
(攻撃は最大の防御卯であるという意味では攻撃的でもありますが)。
それが優秀なアジテーター、オーガナイザーによって世界から兵士を呼び寄せるようにから訳が分からなくなった、私はそういう印象を持っています。
ヨーロッパを中心として世界各地から集まった兵士たちに真面目なものを感じないのです。少なくとも一部はそうです。昨日まで膚を露わに酒を飲みながら、ナイトクラブで踊っていたようなナンチャッテ・イスラムが突然発起してシリアに渡り、イッチョマエのテロリスト面をして戻ってくる、そんな例が少なくありません。
私は一昨年10月のブログで、「イスラム国物語」と茶化して「結局参加者はよく言えば自己実現のため、悪く言うと銃を持ったフーリガンみたいに暴れるのが目的でISに参加しているのではないか」と書きました。
今もその考えには変わりありません。
そのほか、何の命令も指導も受けず、勝手に事件を起こしてISに追認してもらおうとする輩もいます。いわばISの”勝手連”です。フロリダの乱射事件などはそれに近いものを感じます。
つまり“何でも何でもIS”なのです。
今日私が「アッラー・アクバル(神は偉大なり)!」とか叫んで事件を起こし3日間黙秘すれば、世界中のニュースで最低一回は扱ってくれるのですからやるやつはやる――。
しかしそうなると今回のバングラディシュのテロは何だったのか、彼らは何をしたかったのか、じっくり腰を据え考えておく必要があります。
今回初めて知ったのですが、バングラディシュはたいへんな親日国だそうです。
私がずっと意識していた親日国というとトルコです(2013.09.12「トルコ、トルコ」 )。
しかしトルコはたくさんの問題をかかえ、かつての「遠くて近い国」から「遠くて遠い国」になりつつあります。日の丸とよく似た国旗を持つ国バングラディシュが同じように「遠くて遠い国」にならないよう、何とかしていきたいものです。
(この稿、続く)