資料の一部だけを提示して全体を見せない――TIMSS1999を使って「日本の中学生の学力は東アジアで最下位」というのはそういう詐術です。このやり口は「世界大学ランキング」でもしばしば用いられました。
例えば定評のある「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」の世界大学ランキングが発表されると、テレビは右のようなフリップボードを出して、
「世界大学ランキング、東大は23位、京大59位と、まだまだ世界との間に大きな差のあることがうかがわれます」
などと言ったりします。
わが国の最難関、日本のトップエリートの集まる東京大学が23位というのにはやはり傷つきます。双璧の京大が59位となるとさらにがっかりです。6位から22位までにはどんな大学が入っているのでしょう?
有名なところで言えばソルボンヌ大学、ボン大学、ベルリン大学なんかもレベルが高そうです。各国首都にある大学を考えれば、モスクワ大学、ローマ大学、マドリード大学、アメリカではイェール大学、マサチューセッツ工科大が出ていませんし、シカゴ大学も聞いたことがあります。ワシントン大学はどうだろう?
ちょっとひねって考えれば、人口比で北京大学、受験大国(と言うより受験強国)の韓国ソウル大学なども東大より難しいのかもしれません。人口と言えばインドのデリーも気になります。
ということで答えを見ますと、
【THE世界大学ランキング(2014-2015)ベスト30】
- カリフォルニア工科大学
- ハーバード大学
- オックスフォード大学
- スタンフォード大学
- ケンブリッジ大学
- マサチューセッツ工科大学
- プリンストン大学
- カリフォルニア大学バークレー校
- インペリアル・カレッジ・ロンドン
- イェール大学
- シカゴ大学
- カリフォルニア大学ロサンゼルス校
- チューリッヒ工科大学
- コロンビア大学
- ジョン・ホプキンス大学
- ペンシルバニア大学
- ミシガン大学
- デューク大学
- コーネル大学
- トロント大学
- ノースウェスタン大学
- ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン
- 東京大学
- カーネギーメロン大学
- シンガポール国立大学
- ワシントン大学
- ジョージア工科大学
- テキサス大学オースティン校
- イリノイ大学アーバナ
- ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン
- ウィスコンシン大学マディソン校
驚くべきことに30位以内の大学はアメリカが22、イギリスが4、カナダ・シンガポール・スイス・ドイツそして日本がそれぞれ1なのです(29位が3大学あるために合計は31になる)。
見方を変えるとベスト30の中に英語以外で講義の行われる大学は三つしかないことになります(スイス・ドイツ・日本)。しかもチューリッヒ工科大は修士以上の指導は英語で行われますから、東大は英語圏以外の、母国語で学べる大学としてはトップということになるのです。
ここまでくると世界大学ランキングというもの自体が眉唾になってきます。
いったい何を基準にしているのでしょう?
実は世界大学ランキングのほとんどは「大学の魅力ランキング」なのです。
私たちは国内の大学入試難易度ランキングになれていますから、ついつい「東大より頭のいい人が行っている世界の難関大学はどこなのだろう」と思いがちですが入試の難易は全く関係ありません。入学してくる学生の質とはまったく無関係で、「大学がどれほど優れていて魅力的か」という大学運営の評価なのです。
それはまるで、一生懸命勉強して東京大学に入り、東大内部でも主席を取っていざ世界ランキングに参加しようとしたら美人コンテストだった、そういう感じの間抜けな話です。
しかしともあれ、長い間この世界大学ランキングの6位付近から東大までの大学名は出さないことになっていました。政府もマスコミもそのように対応してきました。出せば「日本の大学のレベルは低い」という印象がなくなってしまうからです。
(この稿、続く)