カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「ブラック&ブラック」~企業倫理を考える

 息子のアキュラが大学3年生でいよいよ就活の時期となりました。
「今どんな様子?」とLINEで訊くと、
「他の人はもう第一コーナーを回ってた」
「おまえはどのあたりなの?」と訊ねると、
「発馬機は出た」
 うかつにもスケートか何かの第一コーナーのことを考えていたので競馬の話には面食らいました。

 継がせる家業があるでもなく近くに多様な仕事があるわけでもない。小さいながら家屋はあるものの、いざとなれば売って現金で継がせる時代です。一人息子ながら遠方に就職することも覚悟しなければなりません。
 それはしかたないのですが、親として心配なことはひとつ、そこがブラックで身も心もボロボロにされないかということです。アキュラはブラック・バイトでかなり苦労したことがありますし、私の友人の子がやはりボロボロにされて帰郷しているのでとても心配なのです。
 私がやっていた教員だって労働環境はかなりブラックでした。しかしそれでも生きがいがあった。公務員だから安定もしていた。これが過酷な上に生きがいもなく、いつ潰れてしまいかわからないとなれば人は気持ちよく生きていくことはできません。
 アキュラにそう言うと、
「そうなんだけど、企業案内を見ても『ブラック』って書いてないんだよ」
 たしかにそうではありますが――。

 さてここ10日あまり、ニュースのトップを飾り続けたのは軽井沢のバス事故とココ壱の冷凍カツに始まった廃棄食品横流しです。このふたつはよく似ていて、共通するのは企業の徹底した不道徳です。
 バス会社の「イーエスピー」は、運行指示書にルートの記載がない、ツアーの法定基準額を守らない、出発前の点呼はしない、到着する前に終了報告を作成してしまう。健康診断はしない車両点検もおざなり、計画通りの運行もさせない、大型は苦手だと言っているのに夜行の大型バスの運転をさせる――と不正のオンパレードです。「乗務員を2名配置したこと以外に何か守っていたことはあるの?」と訊きたくなるくらいです。

 一方、産廃処理企業の「ダイコー」と食品会社の「みのりフーズ」――この2社を通すとどんな食品でもどんどん市場に流れてしまう。
 異物混入を疑われる4万食の冷凍カツを廃棄にしたのはココ壱の誠意です。しかしココ壱が偉かったのではありません。それが日本的企業風土で普通はどこもやっていることなのです。それをいちいちちゃぶ台返しでひっくり返すのだからかないません。
「みのりフーズ」に横流しにするところは分かりますが、「ダイコー」はどんな顔をしてココ壱から廃棄料を受け取ったのでしょう? 空恐ろしいことです。

 それぞれの企業に事情を知る多くの社員がいました。進んで不正を指示した人も黙って実行者となった人もともに存在します。指示したのは悪意ある人ですからかまわないのですが、黙って働き続けた人たちはかわいそうな気もします。切なかったろうな、と思うのです。
 私にもかつてブラックといっていい企業の活動に手を貸していた時代があります。悪いと思っていても内部告発など思いもよらぬことでした。自分も悪に手を染めている以上、“自首”するような気持ちがないと訴えられないのです。しかし嫌だった。

 心配なのはアキュラだけではありません。
 これから何十年も日本を背負っていく若者が、この国は背負っていくに値する、この国と人々のために十分に働きたい、そう思ってもらえるように私たちがこの国を守らなければならないです。