カイト・カフェ

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「マンガ家志望のきみたちに」~絵なんかいつでもうまくなる

 私は「少年サンデー」も「少年マガジン」も相当な相当な年齢まで読んでいましたが「少年ジャンプ」だけは継続的に読んだことがありません。ギャグマンガが中心でそりが合わなかったのと、絵が拙く汚いように感じたからです。それには理由があります。

 私は若いころ、故郷に向かう電車の車窓や見晴らしの良いレストランから見える風景の中に、人間を探し出してじっくりと目で追うことがありました。二度と見ることのない人ですし向こうにしても見られたことに気づかず行過ぎる人ですが、どんな人であってもこれまでの長い人生の中に、あるいはこれからの人生の中に、小説の題材となるような事件の一つや二つはあるはずです。それは誰も経験したことのないすばらしいできごとだったり、信じられないような奇跡だったり、絶望的な悲劇だったり、あるいはありふれた日常の中に発見した小さな出来事だったりとさまざまでしょうが、しかしほとんどの人は小説を書くことも小説家になることもありません。
 原稿用紙100枚、200枚といった文章を仕上げるためにはそれなりの修練が必要ですし、ゴーストライターを雇うにはそれなりの財力も必要です。だから普通は小説にはならないのですが、それでもその人の持っている事実は価値あるものです。
 すべての人が小説の材料を持っているという規模に比べると、ずっと数は少なくなりますが、マンガが好きで描くことも好きな人たちの中に、すばらしいアイデアやすてきな物語をひとつかふたつ持つ人がいます。きっといます。さらにその中の辛抱強い一群からはすばらしい作品を生み出す人もいます。
 小学生のころから何回も何回も練り直しているうちにアイデアやストーリーが熟成して、人に見せるだけの価値を醸し出し始めるのです。そうした作品を「少年ジャンプ」は積極的に拾い上げたようなのです(ようなのですというのはこれは私ではなく、かつて強烈なジャンプ支持者であった友人の説だからです)。それが「少年ジャンプ」の迫力・斬新さ・人気へとつながっていったのです。
 ただし新人ですので絵がそんなにうまいわけではありません。キャラクターの顔立ちや表情が安定しなかったり手足のバランスがおかしかったりと欠点は挙げればきりがありません。それが私の性に合わなかったのですが、基本的に絵は、描けば描くほどうまくなりますから、問題は多くありません。
 大切なのはアイデアです。プロの作家でも100点満点の作品を次から次へと発表するというわけにはいきません。しかし常に70点以上の、及第点の作品を出し続けるということにおいて、やはり彼らはプロなのです。

 中学生あたりと話していると、ときに将来マンガ家になりたいといった子が出てきます。そんなとき、私はつぎのようにアドバイスしました。
「だったら勉強をいっぱいしよう。本もたくさん読み、旅行などもできるだけして見分を広めよう。絵なんて練習すれば必ずうまくなるんだ。それよりも大切なのは次々とアイデアを生み出せること、そして人を喜ばせるストーリーをいくらでも組み立てられることだ。そのためには普通の勉強を普通の人以上にやっていくしかないよね、きっと」

(この稿、続く)