「先生たちはバカなのです」4 〜マイ・レジューム

 マスメディアの学校理解が進んでいなくて、とんでもなく見込み違いをしてしまったのが、1992年のいわゆる「埼玉業者テスト問題」です。

 これは当時、埼玉県のほぼすべての中学校で民間の業者による統一テストが行われていて、その成績をもとに私立高校の事前判定などが行われていたという事実が発覚したところから始まります。

 今“暴かれた”と書きましたが、実際には埼玉県では当たり前のことで、誰も気づかなかったその問題性が明らかにされたという事件です。

 この話題は連日マスコミに取り上げられ、民放キー局や全国紙が次々と埼玉に記者を送り込みます。その多くは教育問題を扱う文芸部ではなく事件取材の社会部でした。

 マスコミは業者テストが数十年にわたって一社のみの独占状態にあることに注目しました。何を疑ったのかというと癒着です。一社独占でそれだけの長い年月となると、半端ではない賄賂が動いた可能性があります。しかも一人二人の問題ではなく、全県の教職員が何らかの形でかかわり利益を得ていたかもしれない大問題なのです。

 しかし調べても調べても癒着の事実は出てこない。見えてくるのは教員が休みを返上で出勤し、休日出勤手当もないのに終日一生懸命業者テストを実施している姿です。やがて数十年間一社独占というのも、結局はデータの一貫性を慮ってことでしかないと次第に分かってきます。

 しかし東京から派遣されてきた記者たちは困ります。何日もホテル代を使い大量の時間とエネルギーを費やして「結局、何もありませんでした。先生たちは一生懸命やっていました」では話になりません。振り上げた拳はどこかに卸さなくてはならないのです。そして結局、

「公立学校のテストが民間業者に任せるとは何事か、テストは公費で行うべきものだ」といった不可思議な話に移っていき、時の県知事が業者テストの廃止を宣言して問題は収束するのです。

 この決定で被害を被ったのは子どもたちの方です。特に都内の有名私立進学校を受験しようしていた子どもたちは気の毒でした。自分の学力位置がわからなくなり受験ができなくなってしまったのです(「埼玉業者テスト問題は人材を県内にとどめようとする県知事の深謀遠慮だった」という噂はここから出てきます)。

 もっとも「自分の位置がわからない」という問題は学習塾が全国テストを導入することによって解決します。そして同時に塾高公低の進学指導も定着しました。

 興奮が収まるとマスコミも社会もあっという間に興味を失い、この問題は二度と蒸し返されることはありませんでした。そして件の業者テストも現在は復活して重宝がられています。必要なものはなくならないのです。

「業者との癒着による業者テスト」などというのは民間のゲスな勘繰りです。教師は恐ろしく誠実でまじめな気持から、業者テストに手を貸しているにすぎないのです。

                                  (この稿、続く)