カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「私が詐欺師だったころ」1〜マイ・レジューム④

  数年後には中級マンションと外車の生活だという甘い夢は2年目の途中から怪しくなります。傘下の教室数が25を超えたあたりからさっぱり増えなくなるのです。新規開拓に失敗したのではありません。つくる端から古い塾が潰れていくのです。ひとつつくればひとつ潰れ、ふたつつくればふたつ潰れるといったまったくの自転車操業です。
 なぜそんなことになったのか。
 話は簡単です。要するに最初からまじめな会社ではなかったのです。

 フランチャイズの塾経営というのはどうやるのかというと、まず初めに郊外の住宅団地にこんなチラシを配布します。
「100万円の資金と空き部屋ひとつをご用意ください。塾経営で月々最大40万円の収入」

 そして応募してきた人がいるとこんな説明をします。
「100万円の資金で空き部屋ひとつを教室に改装し外に看板も立てます。生徒募集のチラシも用意して2回配布しましょう。
 生徒が集まったら毎日毎時間、講師を派遣します。講師料とその交通費は授業料から本部にお支払いください。1回、小学生ひとり60円、中学生ひとり100円の教材費もお願いします。そのほか塾経営のノウハウおよび支援のためのフランチャイズ料がかかりますが、これは月5万円とぐんとお安くなっています。
 収入の内訳は次の通りになっています。
 まず生徒の入会金1万円、これはお宅様とウチの会社で折半します。臨時収入のようなものなのであまりアテにしないように。
 授業料は1科目小学生3000円、中学生4500円ですが、ほとんどのお子さんが小学生は国語・算数の2科目、中学生は英語・数学の2科目受講しますから、それぞれ6000円、9000円と考えて間違いなさそうです。
 小学生は3年生から6年生までの4クラス。一教室は12名ですから全部で48人、28万8千円の収入。中学生は1年生から3年生の3クラス。36人で32万4千円の収入。ですから総収入は61万2千円になります。
 講師料は時給600円の週24時間。月ではざっと6万5千円ほどになります。教材費は8万5千円ほど。フランチャイズ料の5万円と合わせて本部への納入金はざっと18万円。先ほどの粗収入61万2千円から引くと、43万2千円がお宅様の収入になります」

 話半分としても月収20万円。最初に投資した100万円など半年足らずで回収できることになります。それは乗らないテはない・・・。
 しかしその目論見、たった一言で潰すことができます。
「いくら受験ブームとはいえ、競争相手(学習塾)がいる中で、小学校3年生を12人も集めることはできない」

 実際、募集して小学校3年生が応募してきた例などほとんどありません。しかし応募者ゼロはむしろ幸せで、一人でも来られるとかなり厄介です。
 その子一人のために3年生の教室を開講せざるを得ず、その子は6千円しか払ってくれないのに講師料の5400円、教材費540円、それ以外に講師の交通費も出さなくてはならないのです。またフランチャイズ料がそこにのしかかってきます。
 極端な話、全クラスが生徒1名の場合、収入の総額は48000円なのに、講師料は6万5千円、教材費1万1千円ほど、それにフランチャイズ料5万円と講師交通料。ざっと13万円ほどになってしまいます。もちろん電気冷暖房費は別です。
 小学校3年生はまず一人も来ませんから4年生以上に期待するとして、各クラス3人ずつ全18名だとほぼとんとん。月収20万円を目指すにはその倍でも足らないのです。 

                                   (この稿、続く)