カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「男の子の育て方」②

 母は口うるさい人で、私は子どものころからあれこれ細かく世話を焼かれ、指示や指導を受けてきました。
 大人になってもその様子は変わらなかったのですが私が40歳をだいぶ過ぎてから、ふと気がつくと何も言われなくなっていた、そう気づいたのです。
 いつからそうなったのか。
 思い出せないので直接母に「いつごろからオレのこと、あれこれ言わなくても大丈夫だと思うようになった?」と聞くと、答えは明快でした。
「最初の孫が生まれて2〜3年後」
 母には確かな記憶があったのです。
 それは私の実感とも照合します。子どもが生まれて2〜3年後、あるとき突然、生きることに不安がなくなったのです。生きることと言えば大袈裟ですが、要するに世の中の大抵のことは何とかなると高をくくって生きられるようになったということです。しかしそれはもう40歳が目の前になったころのことです。

 かように男の子は大人になるのに時間がかかると言えば一般化しすぎでしょう。私の個人的な資質もありますし、生きてきた経緯もあります。30歳で転職もしていますし結婚も遅かった。そう思って周囲を見ると、確かにきちんと就職し標準的な時期に結婚した友人たちは皆一様に大人になるのが早かった。
 さらに言えば10代で父親になった人たちをみると、多くの場合とても早熟な印象があります。
 今、頭に思い浮かべているのは20代で小学校3年生と幼稚園の年長組の息子を持つシングルの父親ですが、彼などはどう見ても元ヤンキー。それにも関わらず20代後半だったころの私に比べればはるかにしっかりしています。

 別の話をします。ある若い女性と結婚問題について話した時のことです。
「そうなんですよ。素敵な男性はみんな結婚している、だけどその話を友だちのお母さんとしら『そうじゃないのよ、結婚したから素敵になるのよ』って。それ、ほんとだと思いません?」
 たぶん、ほんとです。
 男性の場合、子どもを産んで家庭に入るかそれとも仕事に生きるかといった選択肢がありません。ですから最初から、「将来は働いて自ら働いて家族を食わせる」ことが宿命づけられています(実際にはヒモのような生き方も、妻の収入が多くて「食わせてもらう」といった生き方もありますが、子どものころからそうした人生設計をする子はいないでしょう)。そうなると大人になるために学ばなければならないことが、山ほどあることが思いやられます。
 実際には「大した人間」でなくても世の中は渡って行けるようにできていますが、すべてを知っていなければならない、すべてに精通していないと生きていけないと、男の子はいつまでも不安なのです。だからあんなに危うげに見える、頼りない、そんなふうに私は思っています。

 結婚して子どもができて、否応なく社会の矢面に立たされ、あれこれやっているうちに「アレ、世の中って案外簡単なんだ」と思えるようになる。そうなったとき、男の子は自信に満ちた外貌を獲得し、安心できる、素敵な人間になれるのではないでしょうか。
 逆に言えば、そうなるまでサポートしなければならないことはたくさんあるわけで、男の子を育てるのはとても時間がかかるのです。

(この稿、続く)