カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「基本的には手遅れの、いま」~寄り添う②

 だから以前にも申し上げた通り、すでに手遅れの面があるのです。今から問題を180度変化させることはできません。できるかもしれませんが、できないと思ってことを始めないと喜ぶべき小さな変化を見逃してしまいます。今はその“喜ぶべき小さな変化”を大切にして重ねていくしかないのです。例えばこんな場面を想像してください。

 あなたの息子さんは砂漠の真ん中を歩いています。彼は歩くのを止めません。なぜかと言うと遠い地平線の先に街が見えるからです。そこに向かって歩いているのです。
 食料も水も体力も十分にありますから途中で死んでしまうとか道に迷う心配はないのですが、けれど別の問題があります。それは彼が目指しているのが“悪徳の街”だということです。お母さんは知っていますが、彼にはそれが分からないということです。
“悪徳の街”は最悪の場所です。ありとあらゆる悪がはびこり、普通の意味では幸せに暮らすことはできません。親としては絶対に行かせたくない場所、そこに向かって息子さんは嬉々として歩いているのです。
 一方、もう一度息子さんの地点に戻って、そこから右の方を見るとそこには別の町が見えます。これは“最高の街”です。人々は自分の才能を全開に開花させ、幸福に暮らしています。望むものは何でも手に入り、苦労というものがほとんどない街です。

 思い出せば息子さんが生まれたころ、あるいは幼少の頃、あなたは息子さんと一緒に“最高の街”に向かおうとしていたのです。遠くに見えるその街を指し示して「あの街に行くのよ、あの街を目指して歩いて行きなさい」と息子さんに教えたはずです。
 彼は明るくウキウキとその道を歩み始めました。そのはずでした。ところがどこで道を間違ってしまったのでしょう、気がつくと息子さんは“悪徳の街”に続く道をまっすぐに歩いていたのです。目を離したつもりはなかったのです。けれどいつかそうなってしまった――。
 それに気づいたあなたは、息子さんを怒ったり叱ったりしながら右を指さして言いました。
「あなたの行く先はあっちでしょ! なぜこんなところを歩いているの。こっちの道は悪い道よ。あっちに行きなさい! あっちを目指しなさい!」
とね。
 ところが息子さんは頑として言うことを聞かない。小さな子どものころと同じように、目をキラキラと輝かせながら“悪徳の街”へと続く道を歩き続けているのです。

 さて、こんな状況で何をどうしたらいいのでしょう? 何ができると思います?
 出発地点に戻って最初からやり直すことは不可能です。だって赤ちゃんには戻れませんから。
 今から彼の進む道を捻じ曲げて、“最高の街”に向けさせるというのはどうでしょう?
 それも不可能です。だってそんなことは今までもやってきたのですから。怒ったり叱ったり怒鳴ったり、アメをやったり大げさに誉めたり――その結果の現在なのですから。
 ほんとうにどうしたら良いのでしょう?

(この稿、続く)