「がん幹細胞仮説」

 シャ乱Qつんく♂さんが喉頭がんのために声帯を失ったというニュースが話題になっています。聴力を失ったベートーベンや車椅子の生活を強いられたアベベ・ビキラなど、人はときどき最も重要な部分に打撃を受けることがあります。神様の意図が分からなくなるのはそういうときです。

 同じ病気の忌野清志郎は声帯切除を拒否してがん死を選びました。つんく♂は声帯を捨てて命を拾おうとしています。その違いはさまざまにありそうですが、つんく♂が46歳なのに対し忌野清志郎が50代半ばだったことも関係があるのかもしれません。お子さんもまだ小さいようですから責任の重さも違います。正しい選択かと思います。

 90年代の終わりごろ、「ノストラダムスの大予言」の影響もあって私はまがい物みたいな予言本をかなり熱心に読み漁っていました。その中に「21世紀科学予言年表」みたいなものがあって、2010年までに画期的ながん治療薬ないしは治療法が開発されるとあったのですが、みごとに外れています。

 5年生存率(ほぼ治ったと考えられる割合)は飛躍的に高まりましたが、“撲滅”には程遠い状態なのです。いまだにがん発生のメカニズムもはっきりしません。なぜ生まれるのか、なぜ拡大したり繰り返し現れたりするのか、そうしたことに確定的な理論がないのです。

 がん細胞は一般に“弱い細胞”と信じられています。

 温熱療法といって高い温度によって死滅することも知られています。高いといっても42・5℃ですから正常な細胞は死ぬことはありません。

 抗がん剤はがん細胞の増殖を抑えたり破壊したりするものですが、そこには「正常細胞はがん細胞より強い」という信頼があります。抗がん剤のために正常細胞がどんどん先に死んで行くようでは薬にはならないのです。

 しかしそんな「弱いはずのがん細胞」を絶滅に追い込めない、それはなぜかというのが一つの大きなテーマなのです。

「がん幹細胞仮説」という説は一部、それを良く説明してくれます。

 がん細胞にはふつうのがん細胞とがん幹細胞と名づけるべきもう一種類のがんがあり、それはエイリアンとマザーエイリアンのようなものだと考えるのです。 

「普通のがん細胞」は“弱いがものすごい増殖力があって数も膨大”、それに対して「がん幹細胞」は“数も少なくクローンとして増殖力も弱いが本体は強い、そして大量のがん細胞を産む”つまりマザーエイリアンです。

 化学療法や放射線治療によって「普通のがん細胞」は死滅するので病巣は小さくなる、時には見えなくなる。しかしマザー・エイリアンの「がん幹細胞」が生き残っている限り、繰り返しがん細胞は生み出される、そう考えるわけです。「がん幹細胞」は自分のクローンも生みますからさらに厄介です。

「がん幹細胞仮説」がいつまでも仮説のままでいるのは、「普通のがん細胞」が「がん幹細胞に変身する」とでも考えなければ理解できない変化があるためです。がん全体を完全に説明するのは至っていません。

 しかし研究はいよいよ解明のとば口まで来ています。21世紀の終わる前に、がん撲滅は達成されるかもしれません。