カイト・カフェ

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「歯磨きはどうか」~研究授業と手洗い・歯磨き・インフルエンザの話③

 教員になりたてのころ、ある中学校に見学に行ったら教室の後ろに「うしの数」というグラフがあり、横軸にずらっと生徒の名前が並んだ上に赤い棒が立っていました。「さすが田舎の中学校だ、ウシでグラフを作るとは!」と思ったのですが、ウシの数を教室に掲示することの意味が分かりません。さらによく見ると右上に「(本)」と書いてあるのです。この地方ではウシの数を「本」で数えるのかと首を傾げました。
「うし」が実は「齲歯」であって虫歯のことだと知ったのはずいぶん後のことです。
*今日では虫歯の数をグラフにするのは人権上問題があるということで厳しく禁じられています。今日、強権をもってしても歯科医に行かせる方が、将来「健康で文化的な最低限度の生活を営む」(日本国憲法第25条)うえでさらに重要だと考える人は少なくないと思うのですが。

 さて、手洗いを諦めた私たちは結局「歯磨き」に辿りつきます。前述の通り学校ではしょっちゅう歯磨き指導をしているので「いまさら」という感じものないわけではなかったのですが、も一度考えるということでは意味があるかもしれないと思ったのです。そして実際、新しい発見はたくさんありました。もちろんそれは「私にとっての新しい発見」という意味で、詳しい先生には良く知られたことだったのかもしれません。
 私の新鮮な知識とは以下のようなものです。

  1. 歯は視力と同じように、大人になって体が固まると虫歯にならない(極端になりにくくなる)。それはエナメル質が強固になり、虫歯菌を寄せ付けないためである。したがって少なくとも大人になるまでは本気で口腔衛生に頑張らなくてはならない。
  2. ただし歯の根の、歯茎に覆われた部分はエナメル質も薄く、不摂生によって歯茎が下がるとその弱い部分で大人も虫歯になる。
  3. そうならないために、子どものころから歯とともに歯茎のマッサージ磨きの癖をつけ、習慣化しておかなければならい。
  4. 日本人の失われた歯の半数は虫歯によってではなく、不衛生によって歯茎が後退し、健康まま歯が浮き上がって脱落する歯槽膿漏のためである。

等々です。

 実際4については、中学高校と同級で歯磨きもしないのに虫歯が一本もないことで私を羨ましがらせた友人が、50代前半までにすべての歯を失って証明して見せました。落ちた歯も一本の虫歯もなかったそうです。

 虫歯を教材とした授業研究は非常にうまく行きました。2年間の取り組みの結果「500人規模の小学校で毎年のべ100本もの虫歯が消え、全体で数本しか残らない」というところまで持ち込めたからです。

 その2年目、市内でインフルエンザが大流行し、各校で学級閉鎖が相次ぎました。しかし不思議なことに当時の勤務校はほとんど被害がなかったのです。そのころは歯磨きと結びつけて考えることはなかったのですが、2015年の今になって“インフルエンザ予防に歯磨き”という話が出てきます。
 口の中に残るウィルスを掻きだすとともに、雑菌を取り除くことで口や喉の粘膜を守るからだそうです。
 いかにもありそうな話です。                    

(この稿、終了)