「先見の迷」

 昨日は「日本のピークはこれからかもしれない」という記事をネタに、今日の日本を予見した自分を少し自慢しました。けれど若いころの私はもっときらめいていました。

 荒井由実、現在の松任谷由実の発見者は私です。少なくともLPレコード(コレ、若い人は何のことか分からないかもしれない)が発売されて最初の一週間に購入した、ごく少ない日本人の一人であることは間違いありません。まだ「荒井由実のLPください」と言ったら店員が「荒木ミミですか?」と訊ね返した時期です(荒木ミミは当時のアイドル。のちにプロ女子レスラーとなった)。

 アルバムの中の「ベルベット・イースター」という曲をラジオで聞いて、これはもう天才だ、間違いない、このさき日本のポップスをリードしていく人だと信じ、同じレコードを三枚も買ってこれはと思う人に配ったくらい心酔しました。当時のLPレコードは2300円(だったと思う)、アパートの家賃が7000円でしたから大変な思い入れです。

 エメロンのコマーシャルで街をさわやかに歩く女の子に恋をして、(インターネットのない時代ですので)八方手を尽くして調べたらハワイ育ちの中国系アメリカ人だった、簡単には会いにいけないのでほんとうにがっかりした、そういう日本人の最初のひとりも私です(たぶん)。この女性はアグネス・ラムというモデルで、その後スーパー・スターになり、あっという間に“ボクだけのアグネス”ではなくなってしまいました。

 書店で文庫本の棚をぼんやり眺めているうちに、スーッと手が伸びて引っ張り出したのが「氷川清話」。勝海舟の随想録です。なぜ買う気になったのかはわからないのですが、購入して読むとこれがとんでもなく面白い。そこでしばらく、友人と話す時も「勝海舟はねえ〜」などとたった一冊から仕入れたネタで何でも知っているような顔をして話していました。ところがほどなくNHK大河ドラマに取り上げられ、空前の海舟ブームになってしまいました。おかげで「海舟はねえ〜」などと言っている私は、単なる軽薄な人になってしまったのです。

 こうした能力、せめて半年、できれば1年か2年前に発揮されればこれは商売になる、それもかなりの儲けになって2〜3回ヒットすればすぐに大金持ちに――と思ったのですが、そこで気づいたのです。荒井由実をデビューさせた人もアグネス・ラムを採用した人も「氷川清話」を文庫にした人も、私が接する1年も2年も前から動き始めていたはずです。そうでなければ商品になりません。

「日本のピークはこれからかもしれない」も考えてみればユーミンからの引用です。

 そうなるともしかしたら私は、時代の先を読む人間ではなく、時代で最初に乗せられる人間のかもしれません。そしてたぶん、その通りです。

 まあ、そんなところでしょう。だから大金持ちになることもなく、私は人生の終末期へ向かおうとしているのですから。