「オキシトシンとセロトニン」

 マウスにマグネシウムの入っていない食事を与え続けると、子育てをやめてしまうという話を聞いたことがあります。ずいぶん昔のことです。

 従って人間もある種の物質をコントロールすることで、愛情を変化させることができるかも知れない―そう考えて何か不快なものを感じたことを覚えています。

 ところがそれが、良い意味で現実のものとなってきたようなのです。先日のニュースでびっくりしたのは、自閉症の患者にオキシトシンというホルモンを鼻から投与すると、症状に改善が見えられるというのです。

 具体的には、表情と言葉の合わない写真(たとえば迷惑そうな顔をした写真に「喜んでやらせていただきます」といったメッセージをつける)を見せ、オキシトシン投与の前後で表情の読み取りに差があるかどうか調べると、明らかに改善の様子が見られるというのです。

 オキシトシンは出産にかかわるホルモンで、子宮を収縮させて出産を促すとともに、母乳の分泌のスイッチを押すものです。かつては女性だけのものと考えられていましたが、現在は男性も恒常的に分泌することが知られています。

私はこのオキシトシンを、セロトニンとともに「幸福を呼ぶホルモン」として覚えました。

 オキシトシンは出産にかかわるホルモンですがおそらく母性本能とのかかわりもあり、これが多く分泌されると人への親近感・信頼感が増し、ストレスが消えて幸福感を得られると言われています。血圧の上昇は抑えられ、心臓の機能もよくなるために長寿にもつながります。

 また、オキシトシンセロトニン神経を刺激してセロトニンを多く分泌させます。セロトニンは脳の状態を安定させ、心の平安・平常心をつくりだすホルモンです。自律神経に働きかけて痛みをやわらげる効果もあるので、病気のときやスポーツでは特に必要とされるものです。

 そのオキシトシン自閉症に効果があるとなると、自閉症そのものの捉えも変わってきますし、SST(Social Skills Training)のあり方にも重要な示唆を与えることになります。オキシトシンが投与された状態で“表情を読む”というトレーニングをすることで、ずっと効果が上がると考えられるからです。新しい道が切り開かれるかもしれません。

 ところでこの「幸福を呼ぶホルモン」はどうしたら増やすことができるのでしょう。これについては次のように言われています。

 規則正しい生活を送り適度に運動を行う。陽の光を十分に浴びるとともに常に呼吸を整えておく。家族団欒を大切にし、夫婦・恋人とのふれあいの時間を十分に取る。感情を素直にあらわすことと親切に心がける――。

「幸福を呼ぶホルモン」の分泌を促す方法は、実に平凡で常識的なものです。私はオキシトシンセロトニンの話が好きなのですが、それはこうした結論の平凡さのせいです。

*今日はクリスマス・イブです。早く帰って家族孝行をしましょう。幸福を呼ぶホルモンがバンバン分泌するかもしれません。