埼玉県をはじめとして、年度途中での退職金減額にともない、早期退職を願い出る教員が続々出てきたということがニュースになっています。
マスメディアやネットでは、一方で無理なからぬことという意見もありますが他方であまりに無責任と非難する声も聞かれます。さて若い先生方、皆さんがその立場だったらどうされます?
私は、おそらくとんでもない優柔不断に陥って悶々と日を送るうちに時期を逸してしまい、忸怩たる気持ちを抱えながらも表面的には「最後まで教職を全うしたりっぱな先生(辞めなかった部分だけ)」として退職すると思います。しかしたぶん深く傷ついています。
長い教員生活の最後の場面で、こんな試され方をしたからです。
定年退職まで現場にいると退職金を減額しますよというのは一種の早期退職勧奨です。早く辞めると得ですよという明確なサインです。しかしそれに応じると今度は「無責任のそしりを受けてもやむをえない」(上田知事)「決して許されない」(下村文科大臣)となります。つまりアクセルとブレーキを同時に踏まれているようなもので、車が傷むばかりです。
これまでだって人事院勧告凍結だの公務員給与一律カットだの、一方的な減額は何度も味わってきました。今回も平成24年度退職者は一律に退職金カットとすれば、以前同様しぶしぶと従ったはずです。
それをわざわざ「教職を全うした者は退職金150万円の減額」というのでは、まるで教員としての矜持を試されているようなものです。
お前の教師としての誇りは本物か、いつも口にしていた仕事や子どもへの愛情は偽りではないか、本当に金のためではなく崇高な理念のために働いてきたのか。もし崇高な心から出たものなら(2月3月分の給与との差額である)70万円など平気で捨てられるだろう。そうではなく「金のため」といった卑しい心が少しでもあるのなら、70万円を受け取って学校から去るがいい。さあどちらだ、旗色を明らかにせよ
そういうことです。
中には責任ある立場の教頭先生まで早期退職してしまったと非難する人もいますが、私にはよくわかります。過酷な教頭職を最後まで全うしようと歯を食いしばり、カレンダーに×印をつけながら頑張ってきて最後にこの仕打ちでは心折れます。非常に苦しい学級経営を続け、あと数か月、何とか頑張ってやり遂げようと思っていた担任も、これ以上続ける気にはなれないでしょう。みんな60歳という、体力的にもしんどい人たちなのです。
またそれとは別に、家庭の事情で70万円がのっぴきならない額だという人もいます。しかしそうした人たちはみな等し並みに「無責任」な「決して許されない」人たちなのです。
「クラス担任など責任ある立場の先生方は、最後まで誇りを持って仕事を全うしてほしい」(下村文科大臣)
そう言われても、こんな仕打ちを受けてどう誇りを持ったらいいものか。
長年日本の教育に心血を注いでくださったこれらの人たちに、相応の尊敬や感謝の言葉を与えず無意味に弄ぶ、そういう為政者たちに「道徳教育の充実」を迫られるのはなんともやりきれない話です。