カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「この子たちの言うとおりです。信じてやってください」~生徒に騙された話①

 先週テレビでやっていた推理ドラマで、万引きを疑われた生徒を引き取りに行った高校教師が、生徒の「やっていない」という言葉を信じたばかりに結局だまされる、という場面がありました。なかなかよくできた場面でした。

 私もまんまと完全にだまされたことがあります。それは中学校2年生まで荒れに荒れまくったクラスを、3年生から担任したときのことです。
 こういう担任は案外やりやすいもので、「前の(担任)よりはマシ」ということで、生徒も保護者も大目に見てくれるのです。もちろん年中問題を抱えていましたが、追い詰められるということはありませんでした。

 さて、そんなこんなでいろいろやり続けて数ヶ月たった秋口の日曜日こと、朝6時のテレビニュースのスイッチを入れようとした瞬間に電話が鳴って、出ると常に何かやらかしてくれる女の子の父親からでした。
 娘とその友だちが昨夜から帰らず、一晩中探していたところ4時過ぎに屋根伝いに自室に戻ったところを取り押さえた、というのです。早速その家に伺うと私のクラスの女の子2人と、その親が3人(夫婦一組と一人の母親)がメチャクチャ辛気臭い顔で座っていました。

 事情を聞くと、
――いやな予感がして夜中に部屋をのぞくと娘がいない、これはきっと親友の家に行ったに違いないと思って連絡するとそちらもいない。そこで両家で集まって一晩中探し回った挙句、明け方家に戻ったら今まさに二階の部屋に入ろうとしているところだった、というのです。もちろんそのころにはもう一方も家に帰っていました。そこでまた全員で集まって、今、問い詰めていたところだと言うのです。
「娘たちは一晩中遠く離れたところの公園で話をしていたとかいうが、そんなはずはない。わざわざそんなところまで行く必要がない」

 こういうとき、親のいる前で指導をしてもろくなことはありません。子どもには死んでも親には知られたくない、といったことがある場合もあるからです。そうなると絶対に口を割りません。そこで、
「こういうことの指導は時間もかかりますし、この子たちも寝ていません。ひとまず私に預からせてください。午後には報告できるようにします」とか言って、二人を自宅に連れ帰ったのです。

 聞くと何も食べていないというので家内を急がせて食事を作らせ、客用の布団を敷いて眠らせました(このときの一宿一飯の恩義は今日に至るまで返してもらってありません)。午後2時過ぎまで昏々と寝られたのには呆れました。
 そしてまた飯を食べさせ、そこから学校に移動して尋問。

 ところが「公園で話をしていた」という証言を覆す材料がまったくないのです。別々に話を聞いても、公園にいたる道筋など細かなことを話させても、どこにも食い違いはありません。そこで彼女たちの話を信じることにして親たちにも来てもらい、事情を説明して引き取ってもらいました。「この子たちの言うとおりです。信じてやってください」などというお土産まで持たせて。

 ところがその話のすべてはウソだったのです。

(この稿、続く)