カイト・カフェ

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「ちり紙交換はなぜ潰れたのか」~みんなの善意の背後で誰かが儲けている

 資源回収ご苦労様でした。
 天気が良かったので紙類も濡れなくて助かりました。
 この行事もPTA活動としてすっかり定着しました。バザーもいいですが、資源回収に積極的に関わることで、児童生徒が環境問題に触れ、学習の糧となればよいと思います。

 しかし資源回収というものは環境問題など起こるずっと前からあるもので、紙の回収などは江戸時代から続いていたと聞きます。
 現在の日本の古紙回収率は80%以上、資源回収の優等生です。

 ところで20〜30年前まで「毎度おなじみのちり紙交換車でございます。古新聞、古雑誌、ぼろ切れ、ダンボールなどがございましたら・・・」とか言って町をぐるぐると回っていたあのトラック、どこへ行ってしまったのでしょう。同じ時期に町を回っていた「たけや〜、さおだけ〜」のさおだけ屋は潰れない(詳しくは「さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学」光文社新書)のに、ちり紙交換はなぜか潰れてしまったようです。

 ちり紙交換自体は歴史ある職業です。ところが70年代に入ってからとんでもない参入者がありました。行政です。
 オイルショック以来の節約ムードの中で、1973年、当時の通産省は全国に古紙回収のモデル都市を指定しました。それを機に国中の自治体・地区・学校・老人会などが資源回収を始めるのです。
 行政は回収した資源の代わりに奨励金(報奨金)を税金から出しましたので、地区や学校にとってはけっこうな収入になったのです。

 しかしちり紙交換屋さんの方はたまりません。
 この方たちはガソリン代を使った上に自腹でトイレットペーパーを買ってそれで古紙を集めていたのに、自治体は無料のボランティアで集めてしまうのです。しかも必要経費(奨励金)は税金から出しますから少しも懐が痛まない。これでは勝負になりません。しばらくはがんばりましたが、1990年代に古紙の相場が崩れると、このちり紙交換はもう成り立たなくなります。
 かくして古紙の回収は行政とその指定業者に独占されることになります。

 さてこの一連のできごとの結果、損をしたのはちり紙交換屋さんです。それは確実です。
 集めた新聞紙でトイレットペーパーをもらっていた私たちも、ただで持って行かれるという点では損をした口かもしれません。しかしそれは環境問題に協力しているという満足感と相殺しましょう(あれ? ちり紙交換屋さんが持って行った新聞紙はリサイクルと関係ない?)。

 地区や学校や老人会は収入ができたので儲けた口ですが、その収入はもとを質すと税金ですから納税者は損をしたことになるかもしれません。
 買い取り業者の中には得をした人も損をした人もいます。指定業者になった人は得をしましたがなれなかった業者は損をしました。しかしそれはこの制度そのものとは関係ありません。

 実はこのできごとの背後には、目に見えない最大の受益者がいます。それは製紙会社です。
 90年代になるまで、製紙会社は古紙の価格変動に苦しんでいました。しかしこの「行政の作り上げた古紙回収システム」のおかげで安値で安定を確保できたのです。そうなると73年の通産省の指定というのも、かなり怪しくなってきます。

 なお、では今でも行政は大量の税金を使ってこのシステムを維持しているのかというと、そうでもありません。2000年代に入ると有効な古紙回収システムを持たない中国からの需要が高まり、古紙市場は急激に値上がりしたからです。
 行政は細かく奨励金を調整していますが、もしかしたら売値の一部をピンはねしているのかもしれません。しかし個人の懐に入っているわけではなさそうですから、それはそれで悪いことではありません。

 みんながいいことをしているつもりでいる背後で、誰かが儲けているというお話でした。