カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「分かんねぇだろうなぁ」~教員の働きぶりは、想像を絶しているらしいという話

 転出してしまったのでその後どうなったのか知らないのですが、かつてA市が市内全学校の情報を一元化しようとした現場に立ち会ったことがあります。

 どういうことかというと学校のサーバー・コンピュータをすべて廃棄し、市の情報センターのサーバーに一元化するというのです。その上で各校には職員分、最低限の機能を持った端末を配置します。大雑把に言えばモニターとキーボードとマウスだけの端末です。職員はそれを使って、市のサーバー上で仕事を行います。

 学校にあるプリンタも市を通してコントロールしますし、データは一切取り出せません。入れることはできるのですが、出すことができないのです。そこで“それでは困る”と申し立てるのですが、そこから市の担当者との話がかみ合わなくなります。なぜデータを取り出す必要があるのか、市の人間にはまったく分からないのです。

「だって家での仕事ができないじゃないですか」
『なんで家で仕事をするのですか。仕事は学校ですればいいじゃないですか』
「そりゃあ独身ならいいですよ、しかし家庭をもち、家の仕事をしなければならない職員は学校の仕事を持ち帰らないわけにはいかない」
『私たちだって、仕事があるときはいったん家に帰り、家事をやってから職場に戻ってやっているのです』

 そこで私はちょっと立ち止まります。(何かが違ってる・・・)

「・・・家事をやってから職場に戻るって、それ、月に何回くらいあります?」
『そりゃあ、1回か、2回・・・』
「私たちはそれが毎日なんです!」
 すると担当者は流し眼になって、口元を歪ませ、『フン』と小馬鹿にしたような表情をします。その意味は読めます。
(オマエ、議論ニ 勝チタイバカリニ アリモシナイ 嘘ヲ 言ッテルダロ)

 ああ、これはダメだ、絶対に理解されないと私は思いました。夜遅くまで学校に残っている先生がいるという事実は、残ることのできない先生が持ち帰っているという事実も表しています。それが市の担当者には分からない。

 もうひとつこの人がこだわったのは、
「市の人間として就業時間に作成した書類は、市の所有物だ(だから持ち出していいわけはない)」
という考え方です。これも最初は私の方が理解できませんでした。

 しかし話しているうちに了解したのは、例えば水道課に勤務していた職員は転勤とともに水道課の書類一切を水道課に残し、次の市民税課には一枚も持っていかないということです。そう考えれば理解できます。持っていく必要がないのです。

 しかし私たちは違います。A市の学校に勤務している時につくった教材をB市で使えない、では話になりません。そもそもA市に来た時点で教師が過去の教材・教具の一切を捨てて来ているとしたら、A市の子どもたちがかわいそうです。教える側のゼロからのスタートですから。

 最近どこの市町村も閉鎖的なコンピュータ環境をつくろうとしています。主にセキュリティの要請からそうしているのですが、そのシステムはそもそもが行政の機構によく合います。

  1. 基本的に勤務時間外の仕事はない。 
  2. 時間外勤務をする場合には「手当」がつき、あるいは代休を取れる、したがって家で仕事をするメリットがない。 
  3. 部署が変われば書類を持ち出す必要がない。

  つまりコンピュータ時代のずっと以前から、情報が外に出ない仕組みになっているのです。したがって閉鎖的なシステムを導入するのに何の躊躇もありません。また、そうした場所にいる人間から見れば、実際、学校はほんとうに理解しがたい場なのでしょう。

 やはり本腰を据えて学校というもの、そして教師という存在を説明していかなくてはなりません。