「略奪大国」という本が評判になっているみたいです。
読まずにいろいろ言うのもよくないのですが、テレビやラジオの情報によると、日本は「農民が都会に住む人たちからお金を盗もうとし、老人が若者からお金を盗もうとし、貧しい人たちが裕福な人たちからお金を盗もうとし、そして政府がその間に立ってその略奪を行う」そういう国だというのです。
どういう方法で略奪するかというと、基本的には政府が税金として吸い上げ(それでも足りなければ国債を発行して)それを略奪者(上の例で言えば農民や老人、貧しい人たち)に分配してしまうということです。
しかしそれは「略奪」という言葉を使うのでセンセーショナルなだけで、基本的にはすべての民主主義国家がやっていることです。ヨーロッパで一番働かない国と言われるギリシャでは全員が略奪者の側に回ってしまったためほとんどを国債に頼らざるを得ず、その結果深刻な経済危機に陥ったのですから。ただし、日本だけが特別なわけではないのですが、冨を吸い上げるグループと吸い上げられるだけのグループがいるということは、常に頭においておく必要があるでしょう。
月初めに成人式に出席したときのことで、話しておくべきことを忘れていました。それは選挙委員長の話です。
成人式ではどこの市町村でも選挙管理委員長が挨拶をするものらしく、必ず出てきて「選挙権が与えられますおめでとう」という話と「大切なものですから有効に使いましょう。投票率を上げてください」といった話をします。しかしほとんど聞いていませんし、聞いていたとしてもそれで切実な思いになる新成人は稀でしょう。私が聞いていても面白くないのですから。
選挙管理委員長はこういう時、本当は「略奪大国」のような話をすればいいのです。要するに、
アンタらが政治にコミットしないから、アンタたちの冨が略奪されているのだ
よ、ということです。
かつて 「若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!?」 (ディスカヴァー携書:2009)という本が評判になりましたが、それによると 政府の財政や施策により、現在(2009年の段で)70歳代の人たちが生涯において1500万円くらい得をしている一方で、1980年前後に生まれた人たちは差し引き2500万円くらい損をしているというのです。その差4000万円。現在30歳前後の人たちが働いて払っている税金が、みんな老人のものになっている というのです。
なぜそんなことになるのかというと、政治家は選挙の際、一番自分に投票してくれそうな世代に向けておいしい話をし、めでたく当選のあかつきには誠実にそれを実行してしまうからです。どんなに若者むけの約束をしたところで若者は投票に来てくれませんから、何の益もありません。「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙で落ちると政治家ではない」というように、当選できなければ理想も主義主張もへったくれもありません。
かくして若者は見捨てられ、4000万円も略奪されるのです。
思えば昔の総理大臣が提案した「アニメの殿堂」など、日本のサブカルチャーを世界に売り込み、ひいては世界の日本化に一役買ったはずなのに惜しいことをしました。それもこれも「アニメなんてばからしい、そんなところに金を回すな」と言った私たち老人の方に力があったからです。選挙に行かない若者たちは被略奪者の地位に甘んじてビービー泣いていればいいのです。
本当は、二十歳になるのを待ちかねて、二十歳になるとすぐに選挙に行くような子どもを育てたいですね。