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「東大秋入学の憂鬱」~日本人東大生が減るだけの話

 5年後を期して東大が秋入学になるといいます。自分はもちろん、子や孫が東大に行く心配はないのでどうでもいいようなものですが、これはなかなか危険なのかもしれません。

 なぜ今、東大の秋入学かと言うと、これについてはNHKニュースが端的にまとめています。「グローバリズム」と「東大生の学力低下への対応」だというのです。


グローバリズム」(この言葉が出ると私は反射的に身構えてしまうのですが)については世界の7割の大学が秋入学のため、留学生や教員の異動に困難があるということです。また「学力低下」については「ある大学ランキングで東大は20位から26位に落ちた」という例を上げていました。ただし学力低下と大学ランキングとは全く関係ありません。

 東大に学力の低い学生が入学するようになったのは、少子化の時代にそれに見合うだけ十分に定員を減らさなかったためで、学生に罪はありません。
 また大学ランキングは(何種類もあるのですが)どれも大学そのものの実力を測っているのであって、学生の実力を測っているのではありませんから、そもそも関係がないのです

 たとえば上海交通大学のランキング(以下ARWU)は「ノーベル賞フィールズ賞を受賞した卒業生の数」「同2賞を受賞した教員の数」「有力専門誌への論文の掲載数」「引用された論文の数」といった、つまり学校の教員のレベルそのものを指標としています。

 またイギリスの専門誌『タイムズ・ハイアー・エデュケーション』(以下THE)のランキングは、主として「この大学は入学し甲斐があるか」「研究者として働き甲斐があるか」といった点を判断基準にしており、研究者同士による評価の他に「教員の給与」「教員ひとり当たり研究収入・産学連携収入」「研究収入中の公的資金の割合」とかいった収入面、「教員当たり学部学生数」「博士号をもった教員の数」「外国人教員の比率」「外国人学生の比率」といった環境面、そして「教員あたりの論文数」といった研究者の実力などがランキングの指標となっています。これはある程度、金で解決できる問題です。

   先ほど言ったように大学世界ランキングは幾種類もありますが、注目すべきはほとんどのランキングで、東大より上位に「英語以外の母国語で授業を行っている大学」はない、ということです。

 THEで一度東大の上位に立った香港大学も英語で授業をする大学ですし、しばしば東大を凌ぐチューリッヒ工科大(スイス)はドイツ語の大学ですが、修士論文は英語で授業をします。「ARWU(2011)」の場合、「英語以外の母国語で授業を行っている大学」としては東大の20位が最高で次が京都大学(24位)、次がピエール・マリー・キュリー大学(39位)、コペンハーゲン大学(40位)となっています。

 ちなみに上位30位までの国別内訳は、アメリカ22、イギリス4、日本2、カナダ1、スイス1です。日本の大学はレベルが高いともいえますし、日本語で授業をやっている間はダメだとも言える結果です。

 さて東大生の学力低下と世界ランキング・秋入学とはとりあえず関係ないことが分かりました。しかしだとしたらなぜ東大をアメリカ基準(グローバル・スタンダード)に合わせなければならないのでしょうか。  その答えは結局、留学生や教員の異動です。外国の優秀な研究者や留学生を大量に東大(秋入学が拡大すればそれ以外の大学にも)に入れ、そこでの研究成果を政府・企業が吸い上げようというのです。日本の財界がこぞって東大の秋入学に賛成していることからもそれは分かります。

 すでにアメリカのIT産業はインド人研究者・留学生によって担われていると言われて久しくなります。国民教育を諦めたアメリカは、外国人の知恵によって国の繁栄を確保しようとしているのです。そしてそのあとを日本も追おうというのです。

 東大に大量の外国人研究者・留学生が入ってくれば、当然世界ランキングも上位にのし上がって行きます。すべてめでたしめでたしです。
 ただ一つ問題なのは、東大をはじめとする有名大学に日本人が入りにくくなることです。
 東大が大相撲みたいになるのです。(把瑠都関おめでとう、白鵬関、意地を見せましたね)